「それがなぜ自殺がしたいという結論に行き着くんだい?」

20代くらいだろう、まだ若い医者はゆっくりと少女を見つめた。

「…それは…これから……話します…」

セーラー服を着た少女はその視線から逃げるように目を動かした。
ゆっくりと再度口を開く。

「人と話す、人と対面することがとても怖いのです。」

少女は言った。

「親や先生方、友達。全てが私のうわべだけを見て決めつけ、期待を背負わせるのです。」

医者はその言葉に疑問を返した。

「それと、人と対面する恐怖とはあまり関係がないと思うのだが...違うかい?」

少女は静かに目を伏せた。

「何も違いはありません。いいですか、私のうわべだけで決めつけられたものがひとり歩きを初めて私のイメージが出来上がってしまう。」

少女は怯えた声をしていた。

「そのイメージを裏切ることはすべてを裏切ることになるのだと私は思うのです。それを恐れた時、人との対面に恐れが湧き上がるのです。」

なるほど、と医者はうなった。
少女は続ける。

「人の目を見ると全てが暴かれる。そして相手の全てが覗けてしまう気がする。声でも私の動揺が伝わってしまうかもしれない。疑われたら最後、信頼を失います。そう考えるとさらに人と対面することが、会話を交わすのが、とてもおそろしく感じるのです。」

下を向いていて黒く光のない目はもう何も映す気がないようだ。

「ただ...そうなれば人との関わりが薄れてゆく。そして薄れるほど人が恋しくなるのです。」

もう医者は声を出せなかった。

「人が恋しくなるというのは"必要とされたい" "褒められたい" "認められたい" 『愛されたい』という要求が生まれることです。そしてだんだんとこれを満たす方法として自分で理想を構築する。これが拍車をかけてますます人を選り好みするようになり、世界も狭くなってゆくのです。」

少女の肩が揺れ動く。泣いているのだろうか。それとも笑っているのだろうか。わからない。

「そうすると酷く自分がいらない存在に思えて、更に自分の醜く見える欲求だけが残るのです。するとどうでしょう。欲求だけになると自分が酷く浅ましく見えてますますこの世に不必要、いいえ、むしろ "あってはいけない" ものと思えてくるでしょう?」

これが私のすべてです。と少女はゆっくりと顔を上げた。そして、


「だから私は自殺をしたいのです。」


力強い声で一言、そう言った。

しかし、医者は知っていた。
少女が "自殺" という痛みを恐れているため、死ぬに死ねないのだということを。

かわいそうな少女だ。死ななくてはいけないのに死ねないという罪悪感をさらに抱えて一番ひどい状態に自分で追い詰めているのだから。