200X年。
大学生の由香里は、アルバイト先で出会った15歳上の陽太と付き合うことになった。
陽太は、話上手で一緒にいて楽しい男であったが、二枚舌で金銭感覚の鈍い男でもあった。
由香里は、陽太に総額200万円を超える金額を貸した。
陽太はお金を借りるとき、相手の同情を誘うのが上手い。
「ゆかりちゃん、俺、お金が無いんだよぉ。今日は渋谷で仕事をしたけど、帰りの電車賃が無いから、今、歩いてるんだよ。
次の給料日まで、まだ5日もあるでしょ。
だから、俺、これから給料日まで毎日歩くことになると思うんだ。
だから、明日の5時に電話で起こしてくれないかなぁ。」
由香里に対してはいつもこんな感じである。
お金を貸してくれと言われたことはほとんど無い。
しかし、貸すまで連日しつこく、「俺、すっごく大変なんだよぉ。可哀そうでしょ?」という連絡が来る。
遠回しに金を貸してくれと言われている気になるのだが、貸したお金を返してくれと言うと、
「俺は貸してくれと頼んでない!」と突っぱねる。
「次の給料日には返すから。」と言われて戻ってきた金額は、せいぜい総額1万円程度である。
腹が立つのは、「お金が無いから貸してよ~。」と言われて貸した金で、すぐにコンビニに行くことだ。
そして、「俺が奢ってあげるよ。何食べたい?買ってあげる。」と言うのだ。
なんともふざけた男である。
「それは、私が貸したお金なんだけど。
貸してすぐにコンビニで散財されるのはムカつくんですけど。」
と、由香里が言うと、陽太は、
「借りた金は俺の金だろ!返すって言ってんだから、俺がどう使おうが勝手だろ!!
なんだよ、せっかく奢るって言ってるのに。お前、すげぇムカつくよ。」
と、返しもしないくせに偉そうに言うもんだから、
「は?じゃあ、今まで貸した金、返してよ。100万円以上貸してるんだけど。すぐに返せ!」
と反論すると、陽太は、
「おお、おお。わかったよ。じゃあ死んで返してやるよ。」
と脅しにかかる。
まぁ、保険にも入っていない男なので、死んだところでお金が返ってくるわけでもないのだが、そんな感じで、今現在も、貸したお金は由香里の元へ返ってはこないのだった。
ここまで読んで、なぜ、由香里はこんな男と結婚をしたのかと、読者の皆様は不思議で仕方がないだろう。
それには、まだ若い由香里なりの事情があった。
由香里は、アルバイトで稼いだ自分のお金とは言え、200万円を超える金額を彼氏に貸したことを親には言えなかった。
陽太は、
「俺がお前からお金を借りてることを誰にも言うなよ。
お父さんお母さんがこれを知ったら、きっと「別れろ!」と言われるぞ。
ゆかりちゃんは、俺と別れたい?
俺はゆかりちゃんと別れたくないよ。ずっと一緒にいたいよ。」
と、常々、由香里に言っていた。
一種の洗脳だ。
由香里は、多額の借金をし、返すことの無い陽太の罪を一緒に背負っている共犯者のような心理になっていた。
最初に述べたが、陽太は、口が上手い。
15歳年上の陽太は話上手な男であるため、金銭面がだらしない以外は一緒に居て楽しかった。
しかし、金銭面以外にもこんな出来事があった。
ある日、由香里は、路上駐車をし、出頭して罰金をはらうことになった陽太に、身代わりになってくれと頼まれた。
由香里が「嫌だ、そんなことはできない!」と断ると、
「お前は俺のことを愛していないのか!」とキレられたことがあった。
陽太は、優しく楽しい面もあったが、だらしなく、激しく自己中心的な男でもあった。
今ならば、陽太は立派なDV男だと理解できる由香里だが、若かった当時、そんなことは見抜けなかった。
そして、付き合い始めてから2年が経った頃、由香里の精神はすっかりと崩壊していた。
『多額のお金を貸していることを両親に秘密にしておかななければならない苦しみから逃れるためには、結婚をして家族になるほかない!』
という心理にまで至った由香里は、遂に陽太との結婚を決意するのである。
由香里、22歳の夏のことだった。
~エピソード2へ続く~