主が居なくなり それこそ すっかり裳抜けの殻の がらん堂。
最近は めっきり夜業 寄宿舎の空き部屋に 入り浸りな 半妖の少年 レン。

今日も、昼間から 畳の上でゴロリと大の字で うとうとまどろんでいる。

「退屈そうだね、レン」

突然 頭上から降って来た声に ガバッと飛び起きた。

「なぁんだ、隊長か」

「何だとは ご挨拶だなぁ。これでも心配してあげてるのに」

都の治安を守る 御公儀禁衛隊(ごこうぎ きんえいたい)通称 夜業 帝都支部隊長の 鴫原は、相変わらず 意味深な笑みを浮かべている。

「で、旅支度は順調かい?」

「へっ?ん~~、まぁ ボチボチってとこかなぁ」

「ふぅん……。その様子だと まだ手付かずって訳か」

言い出しっぺが 随分と呑気なものだね。と チクリ

「う………、うっせーやい。俺だって 頭ん中で 色々と整理してる最中だって~の」

「その前に キチンと報告する相手がいるんじゃないのかい?」


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竜神の住まう 霊峰、月輪山(がちりんさん)。
その 頂に建立する 白亜の神殿の一室で、新たな主 白毫子(びゃくごうし)こと 俗名 酒巻 我聞は 今日も 八州(はっしゅう)各地から届いた 神々の信書に目を通していた。

すると、何やら ドタバタと慌ただしい足音が聞こえ いきなり襖が開け放たれた。

「白(びゃく)!来てくれっ」

我聞の伴侶 石竜子(せきりゅうし)が、肩を大きく上下されている。
普段 冷静沈着で 滅多に感情をあらわにしない彼が 珍しく うろたえた様子に 我聞も…。

「どうした 石竜子、そんなに息せき切って お前らしくも………」

だが、全部言い終えぬうちに 石竜子は、我聞の狩衣の袖を グイッと力任せに引っ張り そのまま部屋を飛び出した。

「お…おい!待て 石竜子!ちったぁ 落ち着けっ」

「これが落ち着いていられようか!頼む、レンが レンが……!」

強引に連れ出され 祈祷所へ入る。
石竜子は、御魂の鏡の正面へ 我聞を座らせた。
鏡面の向こう側には 呆れた表情のレンの姿が。

「レン、お前 また何か やらかしやがったのか?」

「違うって!だいたい 竜兄ぃ 俺の話の途中で 出てっちまうから ややこしくなっちまうんじゃねーか!」

不満そうに 頬を膨らませ レンが反論する。

「………どう言う事だ?石竜子」

「えっ?いや……その、レンが いきなり旅に出るとか言うので つい………」

しどろもどろに答える 石竜子に、すかさず レンが

「ほらぁ~、そーゆー所だってぇ!」

と、突っ込みを入れた。

改めて 彼は、順序だてて 二人に頭から説明をしてゆく。

「………なるほどな、そう言う事か…」

そう呟いて 我聞は 後で申し訳無さそうに 小さく 縮こまる 石竜子に視線をやった。

「………すまぬ、白。私の早合点で 迷惑をかけてしまった……」

「で……、これから どうするんだ?」

「うん。準備が整い次第『四人』で出発しようと思うんだ!」

「四人?」

怪訝そうに聞き返す 我聞に、レンは一振りの刀を見せ

「忘れちまったのかよ 兄貴の元 相棒も一緒だって事を」

「まったく………お前ってやつは。気を付けて行って来いよ レン」

「おう!兄貴と 竜兄ぃも 達者でなぁ!」


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武家屋敷………兵藤家では、陸之進が 持って行く物の書き付けを見ながら 旅支度をしていた。

「え~っと、矢立に薬 手拭いに 携帯の干し飯も入れた……と」

そこへ 彼の母堂 沙霧が静かに 入室して来た。

「これを持ってお行きなさい 陸之進」

そう言って 彼女が差し出したのは はし箱の様な物。

「これは……?」

「いざと言う時 陸之進達の力になってくれるでしょう…」

細い はし箱を開けると、中には 巾着袋と 小さく折り畳まれた油紙が入っていた。

袋を開けたとたん 陸之進が あっ!と 声を上げる。
中には、金の粒が 十数粒も。

「母上……これ…」

「困った時に お使いなさい。油紙には 父上の知り合いの 両替商へ宛てた書状が入っています。良しなにしてくれる事でしょう…」

「あ………あのっ、ありがとうございます 母上!」

「気を付けて 行ってらっしゃい」

「はいっ!母上も どうか お身体ご自愛下さい!」



源法院(げんぽういん)横丁にある 八百辰。

「も~っ、お父っつぁんてば そんなに荷物 入らないよう!」

「何 言ってやがんでぃ!道中 何があるか解らねーだろうが!」

「僕、もう子供じゃないんだよ?自分で出来るし!」

我が子に にべも無く 突っぱねられ 辰五郎は すっかり しょげ返ってしまった。

「ホラ ホラ いい加減におしったら!まったく どっちが子供か解りゃしない」

お勝は そう言うと、寿光(じゅこう)に 御守り袋を そっと握らせた。

「おっ母さん……」

「持ってお行き。深草のお不動様に しっかり願掛けして貰ったからね……」

「ありがとう、おっ母さん!お父っつぁんも あんまり酒飲み過ぎたりしちゃ 駄目だからね?」

「わ………解ってらぃ、ちくしょうめ!さっさと行っちまえってぇんだ!」

憎まれ口を聞きながらも 時々 大きく鼻をすする音に 寿光は 後ろ髪を引かれる思いがするのだった。



夜業寄宿舎では、レンも 振り分け荷物のカゴに 旅支度を始めていた。

夢道がくれた 携帯の薬等を 印籠に詰め、池畑から貰った 餞別の旅銀は 小分けにして 荷物のあちこちに忍ばせた。

そして………。

「……いよいよだな 相棒。守り刀として 道中 宜しく頼むぜ」

レンが そう話しかけると 応答丸は ガチャリ と 短く 鞘鳴りの音を立てた。









しばらくぶりに まったり更新。

皆さん、新型コロナで大変でしょうけども 頑張って乗りきりましょう!

ワクチン出来たら こてんぱんにしてやる~!


大人への 小さくて でも力強い一歩!


まったり もっさり続きまふ
(* ̄∇ ̄*)