アナザーマザーブラザー 2 [fragment] | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

SWの妹はいくつ下なんだろうか。
HEの兄妹はいないということで。
 
HE母がしゃべるのは北京語(台湾国語)と英語とたぶん台湾語も。
HE父は広東語と英語とたぶん北京語(普通話)も。
SW父は韓国語と英語と日本語。
HEは英語と…ここでは北京語か広東語を少し。
SWは韓国語と、英語を少しということにしておく。
 
 
 ***
 
バルコニーからは海がよく見えた。
 
「僕も夏休みなんだ」
 
高く作られた手摺に肘を付き、ヘンリーは言った。
 
「香港は初めて?」
「うん。君は?」
 
ヘンリーは強い風に目を細める。
 
「学校がない時は一緒に来るんだ。サマーキャンプとかに行くこともあるけど」
 
同じ方を見ると、美しい海に白い波がきらめいている。
その水平線の先に、ヘンリーの家がある。
 
「だから、ここは僕の夏の別荘」
「王様みたいだね」
 
海から目を離せずに、俺は言う。
 
「でしょ?」
 
その声は楽し気で、暗いところなんて一つもない。
父上の姿が見えないが、それを聞いていいものか、俺は迷う。
リビングルームに写真のひとつでもあればきっかけにできるのに。
 
「街は見て回った?」
 
会話の振り方はヘンリーの方がうまいな、と思った。
この人懐っこさは天性のものか。
家を離れていることの寂しさからか。
それとも。
 
「尖沙咀を歩いたよ」
「じゃあ次は香港島を歩かなきゃ!」
 
俺の答えに、ヘンリーは飛ぶように顔を上げて、目を輝かせた。
 
「ひとりで出歩くなって言われるんだ。シウォンがいたらきっとOKしてくれる!」
 
部屋の中に駆け戻り、さっそく外出交渉をするらしい。
俺は天を仰いで笑った。
 
「喜びすぎ!」
 
誰に聞かせるでもなく、思わず呟く。
そして、心の荷が軽くなっていることに気付く。
誰だっていいじゃないか。
弟だって、そうじゃなくたって。
慕ってくれるなら誰だって弟だし、あんなに素敵な少年と仲良くしない理由なんて見つからない。
浮かんでくる笑みを噛み殺す理由もない。
俺は大きく息を吐いて、その名を呼ぶ。
 
「ヘンリー!」
 
それからやっと後を追って、部屋の中に入った。