Someone to Stay (Wonmin) | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

玄関のドアが開く音がして目が覚めた。
ダイニングの電気はついたままで、ソンミンは思わず手をかざした。
何度か瞬きして、椅子から立ち上がり玄関へ向かう。
枕にしていた腕が少し痛い。
 
「戻りました」
 
ソンミンは目を擦りながら、シウォンを迎える。
靴を脱いで部屋に入る紳士は、一人での仕事を終え、今日も最後の帰還となった。
 
「ソンミン兄さんだけですか?」
「うん」
「他の二人は?」
「ドンヘたちの部屋に行ってる」
 
ぼんやりと答えると、シウォンは笑顔になって言った。
 
「俺を待っててくれたんですか?」
 
そうだ、と答えてしまえば良いのだろうが。
残念ながらソンミンは感情を隠すことが得意ではない。
 
「あ、いや、別に」
 
気のない返事が照れ隠しでもなんでもないことは明らかだった。
シウォンは気にした様子もなく、軽く言葉を返す。
 
「なんだ、残念」
 
ダイニングに戻ると、ひとつだけ引かれた椅子に気付いたらしい。
 
「ここで寝てたんですか」
「ちょっとだけね」
 
ソンミンの答えに、シウォンは大げさに眉根を寄せた。
 
「うたた寝なんてしたら風邪を引きますよ」
「気をつけるよ」
 
言われてみれば、頭が重い気がした。
何気なく頬に手を当てると、大きな掌がソンミンの額を覆った。
 
「顔が赤いですよ」
 
覗き込むシウォンの真剣な眼差しに、かえって顔が熱くなる。
 
「寝てたせいかな」
 
顔を背けると、テーブルの上で着信を知らせる光が点滅していた。
シウォンから逃げるように身体を離して、ソンミンはスマートフォンを手に取る。
届いていたメッセージを確認すると、これも弟の一人からだった。
 
「リョウクからだ」
 
リョウクはソンミンも来ると思っていたらしい。
問うて曰く、来ないのか、体調が悪いのか、シウォンは帰ったか。
ついでに、ウニョクとキュヒョンは何も知らない、という愚痴。
 
「何て?」
「僕は来ないのかって」
 
シウォンはテーブルに鞄を置き、返信を作るソンミンを眺めている。
 
「シウォンは行ってきたら?」
「兄さんは?」
「僕は行かない」
 
素っ気無い態度に、シウォンは苦笑する。
 
「病人は置いていけませんよ」
「病人じゃないし」
 
ソンミンは無意識に唇を尖らせた。
結局、自分は行かないこと、シウォンが帰ってきたことだけを書いて、リョウクに送る。
 
「もう休みますか?」
 
気遣う言葉を、何故か素直に受け止められずに、ソンミンはシウォンを見る。
 
「もう休んでくださいね」
 
睨むような視線を受けたシウォンはしかし、余裕の笑顔だった。
ソンミンは目を逸らし、ため息をつく。
 
「休むって言ってくれないと、担いで連れて行きますよ」
 
数秒の沈黙の後、ソンミンは小さな声で答える。
 
「もう寝る」
「そうなさってください」
 
スマートフォンが光って、(おそらくリョウクからの返信の)着信を告げる。
ソンミンはそれをシウォンに差し出した。
 
「リョウクに返事しておいて」
 
受け取ったシウォンは、驚きながらスマートフォンとソンミンを交互に見た。
 
「分かりました」
 
ソンミンは自室へと足を向け、シウォンも後に続く。
部屋に入り、ソンミンは振り返ってドアに手をかける。
 
「俺も部屋にいますから、何かあったら呼んでください」
「分かった」
 
俯いて頷くと、ふと視界が暗くなる。
シウォンはソンミンを抱きしめて、吸い込まれるような声で囁いた。
 
「おやすみなさい」
 
何故か涙が出そうになるのを堪えて、ソンミンも挨拶を返す。
 
「おやすみ」
 
腕が緩められると、ソンミンはシウォンを見上げた。
潤んだ目を開いたままのソンミンに、シウォンはキスを与える。
再び強く抱きしめられながら、ソンミンは目を閉じて、瞼の裏に甘いキスを焼き付けた。