From you from you Andy (ChunJoe) | Shudder Log

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* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

「一瞬、チャニ兄がキスするのかと思った」
 
チャンジョはそう言って、末っ子らしく笑った。
もう一人の末っ子のリッキーがさっき「迫力があって格好よかった」と言ってくれたMVのシーンのことだ。
そのシーンで、僕とチョンジは言い合いの喧嘩をしている。
 
「あれ、争ってる場面だよ」
「うん、知ってる」
 
ストーリーは覚えてる、とチャンジョは言う。
 
「チャニ兄は恋してる表情が上手いから」
 
だって、一人の女性を取り合う設定だから。
チョンジの演技が上手くても、別に僕の役に対してじゃない。
 
「一瞬だけ、ね」
 
チャンジョは笑顔のまま念を押すように付け加える。
 
一瞬だけ、僕とチョンジがキスをするのかと、チャンジョは思ったという。
 
ふと視線を上げると、部屋の反対側にいるチョンジと目が合った。
チョンジはキレイに笑い、僕は頬が熱くなるのを感じて、思わず目を逸らした。
 
 *
 
目が合ったから、笑いかけたら、ハっとした様子で顔を背けられた。
そしてそのまま、エルジョーは俺に背中を向けた。
向かい合うチャンジョは笑いながら、和やかに話をしている。
 
なんだよ、それ。
 
「チャニ兄、どうしたの?」
 
ニエルの声で我に返り、でも返事は少し不機嫌になった。
 
「ん、別に」
 
俺の視線の先を見て、ニエルが思い出したように言う。
 
「そういえば、MVでさ」
「うん」
「チャニ兄とビョンホン兄のシーン、ちょっとドキっとしちゃった」
 
ニエルの表情は変わらず明るい。
 
「なんか二人がキスしそうに見えて」
 
キスしそうなくらい親密なその相手に、俺は何故か背を向けられているんだけど。
口に出す訳にもいかず、苦笑いしてみせた。
俺の生返事を気にせず、ニエルは話を続けてくれる。
後姿でも分かる、楽しげな様子。
目を逸らされた時の顔を思い出して、苛立ちが募る。
こういうことは我慢していても埒があかない。
俺はニエルとの会話を切り上げ、エルジョーに近付いた。
 
「ビョンホン」
 
声をかけると、あからさまに驚かれる。
俺の気のせいじゃなく、やっぱり意識的に避けたんだ。
 
「何?」
「今、ちょっといい?」
「‥‥いいけど」
 
俺はエルジョーの手を取り、部屋を出た。
そのまま廊下を抜けて、人気のない場所まで行く。
その間エルジョーは黙って、ただ俺に引き摺られていた。
 
「何が気に入らないのか、はっきり言って貰える?」
 
立ち止まって振り返ると、単刀直入に聞いた。
エルジョーは何度か瞬きして、顔を伏せる。
 
「気に入らないとかじゃない」
「じゃあ何で避けようとするわけ」
 
強くなる語気を抑えられず、俺は尋ねる。
エルジョーは息を吸って沈黙した後、小さな声で言った。
 
「あの、喧嘩のシーン」
「うん」
「あのシーンで」
「あのシーンで?」
 
エルジョーはさらに深くうつむいて、ゆっくりと言う。
 
「キス、するのかと思ったって、言われたんだ、ジョンヒョンに」
「それ、俺も言われた」
「え?」
 
少し驚いたようにエルジョーが顔を上げたので、俺は付け加える。
 
「ジョンヒョンじゃなくてダニエルからだけど」
「そう」
 
全部言いました、という風のエルジョーに尋ねる。
 
「それで?」
 
エルジョーはきょとんとして、俺の顔を見返した。
 
「それでって?」
「それだけ?」
 
キスするかと思ったとチャンジョに言われた。
だから何だというのか。
視線で言葉を促すと、エルジョーの耳が赤く染まった。
 
「考えなかった? ダニエルに言われて」
 
言いながら、また顔を伏せる。
そうか、考えたんだ、エルジョーは。
ニエルに言われたときに、確かに俺も考えて、でもそのまま流した。
だって、別に――。
 
ああ、どうして思い付かなかったんだろう。
別になんでもない、なんて、エルジョーは思わなかったんだ。
 
 *
 
恐る恐るチョンジを見上げると、その顔はもう怒っていなかった。
その代わり、思いつめたように見えて、僕は声をかける。
 
「チャニ?」
 
チョンジは呼びかけには答えず、ただ僕の顔を見つめた。
その瞳から考えが読み取れなくて、僕は少しだけ不安になる。
 
「ビョンホン」
 
名前を呼ばれたかと思うと、両手で顔を包まれる。
そして目を閉じる間もなくキスをされた。
性急さとは裏腹な、優しい、触れるだけの。
 
「俺は、あのMVがなくても」
 
唇が離れると、チョンジは低くした声で囁いた。
 
「誰にも何も言われなくても、ずっと考えてる」
 
キスしたいって。
 
僕は頬が熱くなっているのを感じて、チョンジの肩に顔を伏せた。