バレーボールマンガでTLです。
エロ無です。
今コミックスが手元にないので
旭さん、谷地ちゃんがお互いどう呼んでたか確信が無いです。
色々ねつ造してますが温かい目で読んでいただけると嬉しいです。
「背中の温度」
その人の背中はオーラがあると思う。
コートに立ってる誰もが感じるオーラ。
私はそこに一緒にいるわけじゃないけどその背中が好きだ。
これがエースなのだなと思う。
だけど
「…あの… 俺谷地ちゃんになんかしたっけ…」
コートから出た彼の背中は途端にまるくなりおどおどと振り返って私に言う。
「へ…?」
何とも間の抜けた返事をすると彼は一層眉を下げて困った顔をする。
「なんか…ずっと後ろから睨まれてる感じするんだけど…」
「あっあっあのっ すみません、背中おっきいなって見てて…お父さんみたいだなって…」
慌てて言い繕う。お父さんじゃくて大人みたいって言おうと思ったのに失敗した。
「お父さん…」
何やらショックを受けたような表情の彼とその横で「お父さんって…っ そんな感じだけど…」と爆笑する2人の二年の先輩に圧倒されて
言葉の訂正をしそびれてしまった。
さらに丸くなったような気がする大きな背中に私はこっそり謝罪するしかなかった。
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寝る前にスケッチブックを手にするのが最近の習慣かもしれない。
気づくとあの背中を思い浮かべてしまうので形にしてみたくなったのだ。
滑らかに動く鉛筆の先にあの背中が描かれていく。
絵はそこまで得意じゃないけど今すぐそばにいるようで結局同じ背中を何枚も描き出してしまった。
自分の吐息でふと現実に戻る。
スケッチブックに手を置いてみた。
ザラザラした感触だけで温かさは感じない。
その瞬間分かってしまった。
私はあの背中に触れたいんだなってこと。
そしてそのことに酷くドキドキしてしまうこと。
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ひょんな事から二年の先輩にスケッチブックを見られてしまった。
「あー!これ旭さんだろ?すっげ、良く似てる!」
「背中しか…描いてないですけど…」
さり気なく取り返そうとするもバレー部でも小柄な先輩は離してはくれない。
「多分、部員のなかで俺が一番旭さんの背中見てると思うぜ?でも良く描けてんなー…筋肉の具合とかホントそのまんまじゃん…あっ」
目の前の先輩がぴゅっと消えて駆け出した。追いかけようとした先に彼がいたので立ち止まってしまう。
「旭さーん、これスゲーよ!谷地ちゃんが描いた旭さん!」
「お、おい…そんな勝手に…」
押し付けられたスケッチブックを覗き込んだ彼は一瞬目を見開いて私を見た。
「あ、あのすみませんっ… なんか…描いてみたくなって… その…」
しどろもどろになる私に彼は
「すごい上手なんだねぇ。そっか、絵に描くから見てたんだ…」
そう言いながらもう一度スケッチブックに視線を落とす。
彼が言うのとは微妙に違う気がする。描きたかったから見てたんじゃない見てたから描きたくなったのだ。だけど否定する勇気は到底無い。
「でも、なんで背中だけー?顔とかも描けばいいのに」
二年の先輩は邪気も無く言う。
「西谷、俺の顔描いたって楽しくないだろう… 谷地ちゃん困ってるじゃないか」
頬を指で掻きながら彼は言う。その表情は少し傷ついているようにも見える。
「ち、違うんです!わ…私あの… そんなに顔を見たことなくて…」
「…?」
「私チビだから東峰先輩のこの辺…しかいつも見えなくて…だから…」
指で彼の胸のあたりを指す。触れてないのにちょっと熱くなった気がする。
「なんだ、そうか…じゃあ」
彼は私の頬を両手で持ち上げて上を向かせた。
「…こうやって顔上げればいいんじゃない?」
触れられると思っていなかった私は動揺して固まってしまった。
そばにいた二年の先輩も絶句している。
「ああああ、旭さん…あんたそんなキャラでしたっけ…?」
それだけ言うと真っ赤になってしまった。
その言葉と見下ろした私の表情に我に返った彼は一気に沸騰したように真っ赤になる。
「ええええ…いや、特にそんな意味は無くて…あの…」
「……」
まだ頬は彼の手の中にある。視線をそらすことも出来ず言葉も出せずただ彼を見つめてしまう結果となる。
その感触が嬉しくてでも恥ずかしくて自分がどんな表情をしてるのかもわからなかった。
「旭、一年女子をいじめるな」
突然、低い声とともに彼が離れていく。
「大地ぃ…いてえよ…」
キャプテンに耳をつかまれた彼が情けない顔をしている。
「谷地ちゃん、迷惑だったでしょ?ごめんね?ほら、練習始めるぞ」
真面目なキャプテンが彼と二年の先輩を引きずっていく。
騒がしい声が遠ざかったとき私は彼からスケッチブックを返してもらってないことに気づいた。
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その日の練習が終わり選手が帰ったあと先輩マネージャーと明日の打ち合わせをして校門を出たらもう辺りは薄暗くなり始めていた。
少し急ごうと駆け出そうとしたときに声をかけられた。
「谷地ちゃん」
聞き覚えのある低く優しい声に驚いて躓いてしまった。
「うわっ、ごめん…急に声かけたから」
腕を取られて転ぶのを免れて安堵したあと顔の近さに動揺してしまう。
「すみません、ありがとうございます」
さり気なく離れていく手を残念に思いながら彼に向き合った。やはり私の目には白いベストの網目しか目に入らない。
「これ、返しそびれたから」
スケッチブックを差し出されこのために待っていてくれたのだと知る。
「私の方こそすみません…なんか…盗み撮り…絵だから違うのか…なんか変なとこ描いて…」
「いやぁ…いいよ、なんかくすぐったい感じするけど嬉しかったから」
「……」
「い…いっこだけコートに入ってないときのやつ…あるよね?」
スケッチブックの中身のほとんどは彼がバレーをしてる時の背中だ。
トスを待っているとき、スパイクを打つ瞬間、スパイクを打ったあと。
だけど、そう。一枚だけコートの外での彼の背中を描いたものがあるのだ。
「……はい」
「こういうトコも見ててもらえてるってのはなんか嬉しいよ。気負ってる物を全部下した自分を見た気がする」
私もそういう彼が描きたかったと言いたいが言い出す事は出来ない。
ただ渡されたスケッチブックを抱きしめるだけだ。
「……で、やっぱりその…」
さっきまでなんだかかっこよかったのに彼の声が急に弱気な感じに戻ったような気がする。
「……?」
「俺の背中ってお父さん…みたいなのかな… お父さんはちょっとさすがに…」
「い、いえっあれはちょっと言い間違いしてしまって… 大人の背中というか…頼りになるってことを言いたくて」
あわあわと言い募る私の頭をぽんぽんと彼は撫でる。
「お父さんじゃないならよかった…谷地ちゃんにお父さんって言われるのはショックだから…」
「あーん…ホントすみませんー…」
自分のウッカリ発言が彼を傷つけてたのかと思うといたたまれなくなってしまう。
「いいよいいよ、頼りになるってことは男として嬉しいことだ」
何となくまた声色が変わった気がして彼の顔を見上げた。
コートにいるときでもコートの外で仲間と話してるときでもない見たことのない表情の彼がいて思わず見惚れてしまった。
「やっと顔見てくれた」
微笑んだ彼を見たら顔に熱が集まるような気がして心臓のドキドキがうるさいほどに高鳴っている。
「東峰先輩…」
「どした?」
「東峰先輩見てるとすごくドキドキするんですけど…私どこかおかしいんでしょうか…」
「…えっ …それは…」
「背中見てると描きたくなって…描いてると触りたくなってしまうんです…」
「……」
「もしかしたら変態になってしまったのかもしれません…」
「…っ!谷地ちゃん?」
「……っ」
自分でも何を言ってるのか分からなくなってぐるぐると思考が回ってしまう。
情けない自分に視界が歪む。
「…背中…触りたいなら…そうだ、おんぶでもしようか?」
「へ?」
「谷地ちゃんなら軽いからそのまま家まで連れてくよ?」
「そ、そんな、選手の人にそんなことさせられませんっ!」
でも、おんぶしてもらったら気持ちいいだろうなぁと思う。
きっと瞬きだしたあの一番星にも手が届くんじゃないだろうか。
「それじゃ、おんぶは俺がもうちょっと鍛えてからにしようか。今回はこれにしとこう」
私の心の声が伝わってしまったかのように彼は微笑んだあと私の手を取った。
「あ、あの…」
隣を見上げると彼の顔も真っ赤で額にうっすら汗がにじんでいる。
捕まれた指は彼の大きな手の中で動けずにいる。
それから私たちは何も話せずにただ一番星を追いかけるようにゆっくりと帰った。
☆おわり★