今夜の地下鉄も混んでいる


夜も更けた地下鉄からは人生の香りがする

加齢臭

ラーメン臭

ニンニク臭

圧倒的なアルコール臭

私のディオールな香りは負けてしまうに違いない

窮屈な車内で身をよじりながら、○刊競馬という名の専門誌を広げる

隣のサラリーマンが迷惑そうな顔をしているのは承知

でも、見たいの

どうしても今、見たいの

ドアの窓に張り付けるようにして専門誌を読む

地下鉄の窓は鏡のよう

鏡の向こうではイチャイチャカップルが私の美貌をチラ見して、ほほ笑む

罪なオンナだわ、私

「なんか、文句あるか?」的な、氷のような視線をカップルに返す


迷惑そうなサラリーマンが同僚らしき人に話しかける

「そういえば、今度はフェブラリーステークスらしいよ?」

こうだから、バイリンガルじゃない人は嫌いよ

今は1月じゃないの

”January Stakes”

Native Englishじゃない男なんて興味ないわ

そう思いながら、違和感を感じる

何かが違う

そう、私のディオールの香りが居酒屋の香りに変わっているように・・・


あの男・・・


フェアリーSとフェブラリーSを間違っているのに違いない


ふっ・・・

たくさんのため息を乗せた地下鉄は、自宅最寄駅に到着

タクシー乗り場の列

見慣れた光景

そんな時、出会ったの

あの男に

奇跡だと思った

寒空の中を歌いながら彼はやってきた

「1・2・3・4・ALSOK」
「2・2・3・4・ALSOK」

驚く私の前で立ち止まる彼

華奢な男だわ

私は思いきり低い声で彼に囁いたの

「早く帰って寝ろっ」

もちろん、彼の後ろからついてくる両親に聞こえないように

そして彼は、私の前を風のように通り過ぎた

タクシーの後部座席でひそやかに願った

今夜私を思い出して・・・

あのガキが夜泣きしますように

罪なオンナかしら?私



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