〈記録〉

認知症の母の入院〜癌発覚まで➁



まず医師から説明があったのは

「肝臓に嚢胞が見られます」
という結果

今後、薬で対処しながら嚢胞が小さくなっていけば良しとのこと
食欲もあり、歩行的には問題ありでも今のところ危惧するようなものではなく、血液検査の炎症も、この嚢胞が治まるのを待ちながら注視していきましょうと…

そして

『胃と大腸に怪しい影がありました』

この"怪しい影"というフレーズ
ひと昔前のドラマに出てくるようなセリフを実際に聞くことになるとは想像もしていなかったため、私はしばらく言葉を失った
胃と大腸の二箇所…

「それは癌でしょうか?まだ決まっていないのでしょうか?」

そう質問するのがやっとだったが、その時言葉とは裏腹にこれだけの医師と看護士、介護士の方が同席している意味を察しながら"告知"の現場の当事者であることを痛いほど感じていた

『断定はできませんが……』

………
の意味を理解する私と、それ以上の言葉を発しない医師との沈黙の時間


それからゆっくり医師は続けた

『残念ながら、認知症の方の進みが見られます。胃と大腸に見られるこの影を詳しく検査することは可能ですが、お母様の場合、検査自体が難しいかもしれません』

そういうことか…
そういうことだったのか……
だからこの人数か

腫瘍かもわからない
腫瘍だったとしても悪性かもわからない

それすら調べることが難しい母の状態に私は心底混乱した
それでも医師は続ける

『どうされますか?治療されますか?それとも痛みを和らげる治療に専念されますか?』

次々に浴びせられる質問に、何をどう答えるのが正確なのか…
ただ私は黙っていることしかできなかった

その後、医師は更に説明を続けていたが言葉が頭に全く入ってこない

ただニュアンス的には

緩和治療への誘導をしている気配
その場合の、これ以上の入院は病床の確保的に難しいとの内容をオブラートに包みながらしていた

「待ってください…私ひとりでは決められません。他の兄弟と相談させてください」

検査を望んだ場合の話をしてみたが、それでも最後には緩和治療を勧める話になってしまう

"きっと医師はそっちの方がいいんだ…そっちを望んでいるんだ"

そう思うしかなかった
私が私の頭の中を整理するよりも前に、施設検討の話まで出ている

「ちょっと待ってって言ってるでしょ!!」

そう叫びたい気持ちが溢れてくると同時に、そんなことは言えない思いがぐちゃぐちゃになり、ここでやっととめどなく涙が溢れてきた

退院計画だと思ったのに
リハビリしなきゃいけないかな
介護認定の段取りを取って、デイサービスやヘルパーさん、又は施設を視野に入れなきゃいけないかな

そんなことを想像して来院した時とは全く違う状況になっていることに戸惑いしかなく、涙が止まらなかった