戦争が始まった…
言葉がでない
🌼*・
「もう 九十になる」
と言って にっこり笑ったその方に
「早かったですか?今まで」
と 店長さんが聞いていたの
私は その後ろで そのお方のお顔を見てた
「そうよの…」
と 言った後 暫く沈黙が続いた
「お前さんたちは 大東亜戦争を知ってるか?」
って 聞いてきた

知ってるよって 頷いたら
そうか…あれは戦争はの 殺し合いじゃ
殺し合いはいかん
絶対にいかん
そして こう続けたの
戦争は 恐ろしい
でもの 今の世の中は 別の恐ろしさがある
これは 止めないかん
今のお国の あれらぁの しとることは
へち行きよう
って言って また 口を噤んだ
へち…ってのはね
違う道 違う場所 違うこと とかって意味
私と二人きりになった時に 言ったの
「みんながご飯食べられる世の中を作らないかん」って
ご飯たべるジェスチャーをしながら
胸に手をポンと置いた
何時もは 和かに 冗談や面白いことを言っては
ニコニコしている方なのだけどね
今日は違った
私の顔を見ていたのだけどね
違うものを見ているようだった
何処か遠いところを見てる ようだった
自分の人生に起きてきたことを
振り返っていたんだと わかったのよ
言葉は少なくて みなまでは教えてくれなかったけど
何時ものその方を知っているから
今日は その心が詰まって見えて
私は 涙が出てた
本当に涙もろくて 駄目だわ
みんながご飯を食べられる世の中を
この言葉だけで 全部の意味が 伝わってきた
そんな気がしてね
胸がいっぱいになったんだった
戦争…怖かったよね
みんながお腹空かせていたのよね
頑張って 働いてきたんだ
また あの様なことが 繰り返されるかと
恐ろしく 見てたんだわ
今の世の中は 違った恐ろしさ
私 わかる
無関心 私利私欲 贅沢
全く 思いやりが 見えにくいんだもの
身勝手な お国のやり方に 憤りを感じても
しょうがないよね
でも そんな国にしてしまったのは
戦後を生きてきた 国民の在り方なんだわ
お見送りの時
何時もは ゆっくりと ポトポト外股で歩く
その方の 歩く姿が
今日は違った
もっとゆっくりと 重たそうに何時もの外股で
一歩一歩 地を踏みしめるように
歩いてたんだった
途中で止まって 背筋をピンと伸ばしたら
また 歩き始めた
その姿に 私 辛くなったんだった
戦前から戦後と今までを生きてきた人の
見てきたものは どんなものだったのだろう?
歩き方もお話しする時の姿も
今日は 全部 重たくてとても深かった
私の顔を通り越して 見てたものは
どんな景色だったのかしら…
みんなでご飯を食べられる世の中を…
作らなくちゃいけない
まだ 止めれるかな
間に合わないのかな…
