一考「水神=ナーガ=龍神」
仏教における二つの大きな流れの一つであり、主に東南アジアに伝播した上座部仏教。ヒンズー教から護法神として多くの神々が取り組まれているが、最も重要視されるのは、シバでもヴィシュヌでもない。水神ナーガである。多頭の蛇身であるナーガは、どこか日本神話における八岐の大蛇を彷彿とさせる。それもそのはず、両者とも細く長く伸びる体貌は水流の象徴であり、転じて治水を司るものと捉えられた。東南アジアで特にナーガが重視されたのは、その地理的及び気候的な環境が決定的要因だと考えられる。この地域はモンスーンアジアと呼ばれる、世界的な降雨地帯であり、多量の雨は水稲耕作の発展を促した。言わば恵みの雨である。一方で自然の猛威が河川の氾濫といった形で現れた時、人間は自然に荒ぶる神を見出す。メコン川やチャオプラヤ川といった大河川の氾濫はその地域の人々の暮らしを壊滅させるに十分であった。裏を返せば、当該地域の支配権を獲得するためには、治水事業で功を成し人々の暮らしの安寧を保証することが求められた。荒ぶる神を宥め、豊穣の神としての側面を引き出すため、人々はナーガを崇め奉った。その結果、東南アジアにおける水神ナーガの地位が飛躍的に高められたと考えられる。
因みに、東アジアにおいてナーガは竜神へと呼び名を変え、今も尚多くの信仰を集めている。














