9年前、というなんとも中途半端ではあるが、9年前の今日、2012年8月12日は、あのジミー・フランサさんがエスパルスでプレイした最後の日である。今、現役でプレイしてる感じはないので「選手」じゃなくて「さん」と呼ぶが、現役だったらすまぬ。
2011年に鳴り物入りで加入したフレデリック・リュングベリさんが開幕直前というやれやれな時期に退団。慌てて補強した感は否めず、モルドバリーグ得点王という肩書も、なんとも微妙な響きを醸し出していた。
そして、ピッチの上で残したものは残念なものだったという点では否定できない。
ヘッドに強いという触れ込みがあったはずだが屈強なDFからはむしろ逃げ、華麗なテクニックも強烈なシュートも見せてくれなかった。
ゴトビ監督は辛抱して使ったが、清水出身のストライカー高原直泰選手が満足な出場機会を得られないという事もありサポーターのフラストレーションは日増しに高まっていった。0-0の終盤で3枚目のカードとして切られたのがベンチスタートだったジミーちゃんさんで、スタンドからはため息が漏れ、帰路につくお客さんがいた試合すらあった。
「ダメ外人」のレッテル待ったなしのジミーちゃんさんがラストプレイにして最高のプレイを見せてくれたこの日の日本平。名古屋グランパス戦。
未だに思う。あの試合は何だったんだろう。真夏の夜の夢だったのだろうか。
伏線はあった。このシーズンのエスパルスはナビスコ杯(現ルヴァン杯)で決勝まで進む。惜しくも優勝は逃したものの、その過程で奇跡的な逆転劇を見せた試合があった。準々決勝グランパス戦。敗退濃厚の2ndレグ終了間際、高木俊幸の逆転弾が炸裂。AWAYゴールの差で勝ち抜けという、2回戦勝ち抜け方式のカップ戦でしか味わえない極上の勝利が、このリーグ戦の直前にあった。そのHOME、AWAY2試合、ジミーちゃんさんはフル出場ではなかったものの、悪くないプレイを見せ、AWAYでは得点も奪い準決勝進出に貢献。夏場に強いのか、日本のサッカーに慣れてきたのか、グランパスの守備陣と相性が良かったのか。たぶんどれも違う。理由なんかないんだと思う。ただ、ゴトビ監督が彼をスタメンで起用しようと決意させるに充分な2試合を経てのこの試合だった。
CFにジミーちゃんさん。左右のウィングに大前元紀選手、高木俊幸選手というスリートップを組んだエスパルス。
縦に切れ込んでクロスを上げる事も、カットインしてシュートを狙うこともできる若きアタッカーを左右に配置。
試合後2人から、ジミーがDFを引きつけてくれてプレイがしやすかったというコメントが聞かれたように、この日のジミーちゃんさんは相手DFから逃げず、真っ向勝負し、負けなかった。無骨だった。漢だった。
3-2で勝利したこの試合。ゴールもアシストもなかった。それでもMVPと言っていい働きを見せた。
日本を代表する守護神楢崎正剛さんの守るゴールを脅かし、惜しくも見事なシュートがポストを叩いた。
もちろん得点という確かな結果があればなお良かったが、専門誌は軒並み7点以上(10点満点)の採点をつけた。
得点もアシストもないFWが7点、7.5点もらうってのはなかなかない。
この試合の翌日、東京ヴェルディへの期限付き移籍が発表された。
本人はこれがエスパルスでの最後のゲームだって分かっていただろうし、サポーターも察していただろう。
もちろんそれを抜きにしても、心から称賛されるにふさわしいプレイを見せてくれた。
いつものように試合後の勝ちロコ。ジミーちゃんさんはテンションが上りユニフォームを脱ぐ。笑い声、拍手、ロコ。
見慣れた光景。違ったのはその後。スタンドに手を上げて挨拶をするジミーちゃんさん。
そしてスタンドから起こるジミーコール。
「バモバモバモ!ジミー・フランサ!♪バモバモバモ! ジミー・フランサ!♪」
これが鳴り止まない。
「バモバモバモ!ジミー・フランサ!♪バモバモバモ! ジミー・フランサ!♪」
永遠に続くかと思われたサポーターの声と真夏の日本平でカクテル光線に照らされたスタンドのオレンジ。
きっと今でも彼の心に残ってる。
でなきゃ…
9年たってもやっぱり謎で、なぜ、あの日だけあれだけのプレイができたんだろうかと。
やはり、真夏の夜の夢だったのか。
それとも、鹿児島デーに起こる奇跡だったのか。
ただ、エスパルスを去った選手が、未だにエスパルスのことを気にかけてくれるってのはとても嬉しい。
You Tubeでその試合の勝ちロコの様子が見られる。
たまに見る。そして「バモバモバモ!ジミー・フランサ!♪」を聞く。
地球の裏でもそうしているのだろうか。
バモバモバモ!ジミー・フランサ!♪
バモバモバモ!ジミー・フランサ!♪
※内容と写真は関連がありません