両者の銃の銃口から放たれた銃弾が宙を飛ぶ。
その二つの銃弾は年の離れた二人は軽く避ける。

「やはり俺にはこの銃は扱い難いな・・・・・・・
 漢は拳闘で戦う、これがジャパニーズ風だ」

すると俊憲が言うと、徐に着ていた服を脱ぎはじめ、上半身を露出する。
祐作の目に映ったのは、高年齢とは思えないほどの筋肉質な体系だった。

「脱げ、一対一の真剣勝負だ」

そう言われ、持っていた銃を捨て、服を脱ぐ。
祐作には殴り合いなどをした事がなかった。

「来い、貴様がどれだけのやり手か試してやる」

先手を取ったのは俊憲であった。
放たれた鋼鉄のような拳は、祐作の腹部へと直撃する。

「ぐぶっ!!」

殺人的な一撃に体を蹣跚(よろ)めかせる。口の中が鉄の味がした。
口から流れ出した血は地面へとポタポタと落ちる。

「祐作さんっっ!!」

こんな慣れていない拳闘に、祐作は不利だった。
そんなことを考えていると再び拳が飛んできて、頬を殴られる。
蹣跚めいた身体は地面へと倒れこんでしまう。

「如何したそんなものか? 所詮戦争も知らん餓鬼に俺が倒せるとでも思ったか?」

「くっ・・・・・・・・」

自分がこんなにボコボコにされるのが悔しかった。
女性を一人守れない、そんなこともできない。

男として、悔しかった。

「さて、次はそこの女と中年、貴様らの番だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうした? 恐くて叫ぶことすら出来ぬか?
 最高だ、俺はその顔が好きだ」

俊憲は徐々にホノカ達との距離を縮めていく。二人になす術が無かった。

「さて、まずはそこの中年から嬲り殺してあげよう」

その言葉に祐作の拳はグッと強く握り締め、立ち上がった。

「おいっ!!」

その強い一声に俊憲は振り返る、その瞬間だった。

「がはっ!!」

祐作の強く握られた拳は俊憲を殴り飛ばす。
その身体は壁の方へと飛ばされた。

「この・・・・・・・糞餓鬼がぁぁぁぁぁ!!!!」

祐作は人差し指を俊憲に向ける。

「俺は絶対にお前に勝つ、必ずだ!」

祐作の目はまるで灼熱の炎のように燃えているように見えた。



「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

暫を標的にし、亮は鉈を強く縦横無尽に振り回す。滅茶苦茶に見えるが、亮も必死であった。
待っている仲間、そしてたった一人の家族のためにも、負けるわけにはいかなかった。

「俺はこんなところでっ! 死ぬわけにはいかないんやぁー!!!」

その一撃が、暫の腕に致命傷を与えた。

「!!」

大量の鮮血が流れ出し、暫は苦笑する。
乾いた唇の間から漏れた声は、意味がわからなかった。戸惑いながらも、亮は鉈を向ける。

暫は首を左側に倒し、口を小さく開け、言う。

「こぉぉろぅぅすぅぅうぅ」

グニャグニャしたその声は、寒気がするほどの殺気を感じられた。
暫は満面の笑みを顔に浮かべ、日本刀を強く握る。そして亮目掛け走る。

「ひひゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

亮も負けずと暫目掛け走る。振り上げられた両者の刃は相手に向かい横に振られる。
二人は、剣を下ろし静止状態が数秒続く。

「ぐっ・・・・・・」

亮は地面に両膝を突き、鉈を落としてしまう。右肩から出血をしていた。
そして暫は日本刀を地面へと力強く突き刺す。

「ぐぅあああああああああ!!!!」

怒涛の轟声と共に暫の身体から大量の血飛沫をあげ、倒れこむ。
亮の顔は少し笑みを浮かべている。それは勝者のみに見られる勝利の笑みであった。

「俺・・・・・・・勝ったんやなぁ・・・・・・・
 やったで・・・・・・・みんな」

弱弱しくなる声は、時期に聞こえなくなった。亮は静かに目を閉じる。




「ふっ!!」

祐作と俊憲の身体には生々しい痣が出来ており、顔からも出血していた。

「はぁ・・・・・はぁっ・・・・・・」

体力にも限界がきていた。視野が狭くなってきていた。
薄れていく視界に見えるのはホノカと京助の姿であった。

「(絶対に、勝つ・・・・・・負けるわけにはいかないんだっ!)」

放たれた拳は祐作の顔目掛け飛んでくる、その寸前であった。
祐作は拳を左手でかわし、力いっぱいに溜めた右の拳で俊憲の顎に叩き付ける。

「ぐはぁっっ!」

俊憲の身体は地面へと横たわった。
そして祐作も限界が来て、地面に膝をつける。

「はっ・・・・・・はぁ・・・・・・やったの・・・・・・か?」

横たわる俊憲は無言のまま動くことはなかった。祐作にホノカと京助が寄り添う。

「祐作さん! やったんですね!」

「あぁ」

「ありがとうっ、君のお陰で命拾いしたよ、感謝する」

「いえ・・・・・」

ホノカと京助は祐作を立ち上がらせ、亮の元へと向かった。



――――横たわる俊憲の指が微かに動いた。



森林道に到着した三人は亮をすぐ見つけることができた。
急いで亮の元へと駆け出し、身体を揺する。

「亮! 亮っ!! 目開けろっ!!」

そこ声に、亮はゆっくりと瞼を開ける。

「祐・・・・・・・俺あいつ倒したで」

「お前すげぇよ! あの化け物みたいなやつ倒すなんてよ!」

祐作の顔は笑みで溢れており、目からは涙が自然に出ていた。
亮はゆっくりと身体を起こす。

「・・・・・・なっ!? なんだよあれ!!」

亮は唖然した。その光景に。
先ほど倒した暫が、全身を震えさせながら立ち上がった。
白目を向いており、生気がまったく感じ取れなかった。

「こいつ・・・・・・・ホンマ化け物や・・・・・・・」

全員が身動き出来ない中、一人の中年が亮に向かい言う。

「亮君・・・・・だったかな? その鉈を貸してくれないか?」

「えっ?」

京助は亮から鉈を貸してもらい、暫の方へと向かう。

「この男は・・・・・・俺が葬るっ!!」