ある街のビルの連なる大通りに面したところに堂々と立地したガラス張りの大きなビル。

そこの三階に彼らの仕事場である事務所が存在する。その名も「Porker face」・・・。



***



事務所の中では朝から声が飛び交っていた。


「あー!! くっそ! マジみつかんねー!」


髪をかきあげる茶髪の青年。


「おまえ、迷子探し、苦手だもんな」


他人事のように薄ら笑みを浮かべ、楽しそうにしている黒髪の青年。


「朝からうるさいってーの! もぉ!!」


こげ茶のボブカットの女性が茶髪と黒髪の青年の会話に文句を言っている。


「なんで苦手な分野、引き受けたの」


青みがかった黒髪の女性が会話に入る。


「うるせぇんだよ、お前ら。ただでさえ見つかってねーから若干、イラついてるっていうのにさ・・!」


さっきっから茶髪の青年の機嫌が悪い。


「はー!? 考太、感じわるいんですけどー」


考太と呼ばれる茶髪の青年。

名前は犬飼 考太(イヌカイ コウタ)。22歳。

ここ、探偵事務所である「poker face」の一員だ。


性格は明るく、どんな依頼も引き受けることをモットーとしている。

ただ、「女たらし」の異名をもつ。なかなかのルックスから、女絡みの潜入捜査を得意とする。


彼は今、迷い犬の依頼の最中である。



「お前はいいよな、二階堂は。依頼終わったばっかでさ」


二階堂とは、先ほど他人事のように薄ら笑みを浮かべていた黒髪の青年。

名前は二階堂 和哉(ニカイドウ カズヤ)。24歳。

高校時代は不良であり、けっこう、名の知れた人物だったらしい。

高校卒業後、探偵として働く。彼も同じく、ここで働く探偵である。


性格はクールで、言いたいことを構わず言うことがある。


「まぁ、俺のはおまえみたいな探しの依頼じゃなかったからな。それに、俺はたらたらと仕事は長引かせないんでね」


静かにカップに口をつけ、中のコーヒーを飲む。


「おれが代わりに受ければよかったね、その依頼」


金髪の青年が自分のデスク越しから孝太に顔を向ける。


「そうだ。唯斗が探しの依頼、特にペットに関しては得意だから、こいつに変わってもらえばよかったんだ」


チラッと目だけを孝太に向ける二階堂。


金髪で若干、ロン毛の青年の名前は桐生 唯斗(キリュウ ユイト)。21歳。

外見はどうみても、探偵には見えないが、見た目とは違い、中身はマイペースで、性格は温厚。優しい。

見た目とギャップがある。


「憂季姉さん、おれ、孝太の依頼の手伝いしてもいいですか?」


金髪の青年が椅子にまたがり、ガラガラと移動しながら、ある女性の傍へと寄る。


「いいわよ。でも、唯斗。依頼を受けたのは孝太自身だけだから・・・」


「いいですよー。ただ働きでも」


笑顔で姉さんと呼ばれる女性の言葉を打ち消した。


「あら、先に言われちゃったわね」


苦笑いをうかべる、「姉さん」さんと言われる茶のロングヘアーの女性。

名前は長瀬 憂季(ナガセ ユウキ)。28歳。

この探偵事務所のボスである。探偵であった父のあとを受け継ぎ、若くして探偵として自立した。


なぜ、「姉(あね)さん」と呼ばれているかと言うと、本人はあまり、リーダーじみた堅苦しい呼び方を好まないため、ほかのみんなが別に考えた呼び名が「姉さん」であったため、みんなから「姉さん」と呼ばれている。


「ちょっ、姉さん!? この依頼は俺がうけたんですよ?」


孝太が反論しようとする。


「いいじゃない。唯斗が手伝ってくれるっていってくれてるんだから。それに報酬は変わらないのよ?」


「そーそ。誰も分け前くれっては言ってないんだからさー。ただで手伝うっていってるんだしー」


今度はガラガラと椅子を回転させながら孝太の傍に寄る唯斗。


「俺だけで受けたかったのに・・・」


ぼそりと孝太が言う。


「手伝ってもらえよ。んじゃないと、結果的に長らく待たせてすみません。見つかりませんでした・・・なーんてことになったら、それこそダメだろう」


コーヒーを注ぎにスタスタと移動する二階堂。


「お前、さっきからいちいち、口、はさむなよなー」


孝太が口をとがらせる。


「俺はなー、おまえの仕事の出来の悪さを少しでも改善してやろうと思って言ってやってんだぞ。礼ぐらい言われたいもんだね。それにお前、相変わらず、俺には敬語つかわねーのな・・!」


「なんかお前には使いたくない」


「・・・クソガキが。姉さんには少しは使うのにか?」


「なにがクソガキだ! 2つしか歳、変わんねーだろーが!」


「はっ、社会に出たら、1だろうが2つだろうが、年上には変わりねーんだよ」


「はは、また出たね、痴話げんか」


「誰が痴話げんかだ!」


二階堂と孝太が同時に言い放つ。

その先には唯斗。


「・・・姉さん。あのバカたち、黙らせてくれませんか? あたし、止めるの飽きた」


二人の会話にうんざりした様子のこげ茶のボブカットの女性。

名前は逢坂 陽菜(アイサカ ヒナ)。23歳。

おもに男性諸君の口喧嘩のまとめ役になっている。


「もう、二人とも。陽菜ちゃんが怒ってるじゃない」


優しく、姉さんが言いかける。そのとき、事務所の姉さんのデスクの電話が鳴った。


「電話ですよ。黙って下さい」


青みがかった黒のロングヘアーの女性が声をかける。

彼女の名前は菊池 綾乃(キクチ アヤノ)。24歳。

物静かでよく、孝太と二階堂の痴話げんかを静かに眺めている。


姉さんが受話器を上げる。


「はい、こちら、探偵事務所 Porker faceです」


少しの間、姉さんが真剣に電話の相手と話をしている。

その後、静かに受話器が置かれ、姉さんが口を開く。


「今から、クライエントが来られるわよ」


「はーい。りょーかいでーす」


唯斗が自分のデスクにガラガラと回転しながら戻っていく。


「今度は誰が依頼受けるんだろう・・・」


綾乃がぼそりと言う。


「どんな依頼内容だろうね」


陽菜はふと、物音のする方へと顔を向けた。


「なー、コーヒーの缶のやつ、どこにあるか知らねー? ないんだけど」


どうやら、缶の中身がきれたらしく、入れかえるため、ごそごそと新しいのを探していた。


「あー、それ、向こうの棚に買い置きしてる」


陽菜が二階堂に声をかける。


「? どこだ?」


「そっちじゃなくて、向こうだよ」


陽菜が二階堂の傍に向かう。





まもなく、クライエントのご到着だ。




続)