ラストの書評です!
最後は名心支部三年のキム・ソンミョンとんむの書評発表です(^◇^)


山田昭次・古庄正・樋口雄一『朝鮮人戦時労働動員』 書評


 1965年5月、未来社から朴慶植『朝鮮人強制連行の記録』が出版された。これにより、初めて「朝鮮人強制連行」の全体像が広く知れ渡ることとなった。この本は、「中国人強制連行」に激しく心を打たれた朴の研究の結実であり、植民地支配責任を不問とする日韓会談の進行に対する問題意識と強く結びついていた。そして、その問題意識を継承しつつ70年代以後活発に「朝鮮人強制連行」に対する研究が進むようになり、本書『朝鮮人戦時労働動員』もその流れを汲むものである。では、その問題意識とは具体的にどのようなものか。『朝鮮人強制連行の研究』の「まえがき」では次のように記されている。

わたしは、在日朝鮮人が過去どのような苦難の道を歩いてきたか、特に太平洋戦争中の朝鮮人強制連行の問題を通して、帝国主義侵略者の正体を明らかにするとともに、在日朝鮮人の民主主義的民族的権利を守るために、また帝国主義侵略者からうけた思想的残滓を少しでも除去し、朝鮮と日本の友好親善、真の平等な国際的連帯のために本書がいくぶんなりとも役に立てばと念願している
 
「朝鮮人強制連行」から日本の植民地支配と在日朝鮮人の苦難の歴史が問われなければならない。以上が朴が提示し、現在にまで通ずる「朝鮮人強制連行」を取り巻く強烈な問題意識なのである。
 だがしかし、そのような問題意識が日本社会一般に共有されることはなく、「朝鮮人強制連行説は虚構だ」という、いわゆる「歴史修正主義」とも呼ばれる言説が平然と流布されているのが日本の現状である。このような現状において、「強制連行」はなかったかのような議論に対する批判をしなければならないという課題に答えようと出版されたものが、本書『朝鮮人戦時労働動員』であった。
 本書の章構成は、1.「朝鮮人戦時労働動員史の歩み」、2.「強制連行説虚構論の系譜」、3.「朝鮮人戦時労働動員の過程」、4.「朝鮮総督府と朝鮮民衆」、5.「戦時期の皇民化教育と朝鮮女子勤労挺身隊」、6.「朝鮮人労働者の労働と生活」、7.「政府と企業の戦後処理」、8.「朝鮮人戦時労働動員の全体像」となっている。
 章題からも明らかな通り、本書は、現在に至るまでの研究の最新動向を整理・再検討することにより、強制連行説虚構論に対し反論し、「朝鮮人強制連行」の全体像を明らかにしている。その際に、労働動員の過程や労働実態のみならず、その「朝鮮人強制連行」の背景、構造的要因がどのようなものであったかについて、朝鮮総督府や皇民化教育が果たした役割についても述べられており、また、その後の戦後処理・補償と残存する課題・問題についても述べられている。
 本書では、一貫して「朝鮮人強制連行」を、1939年からの国家総動員体制に基づく計画的な労働動員に限定して、「朝鮮人戦時労働動員」と表現している。これは、朝鮮人戦時労働動員(強制連行)は、(一)強制連行のみならず、(二)強制労働の点も問題視されるべきであり、前二者と結びついて、(三)民族差別の問題も明らかにされなければならない、という問題意識に基づくものである。実際に、朝鮮人戦時労働動員(強制連行)において動員過程の暴力的強制のみを論じるのではなく、植民地朝鮮における官僚・警察体制による見えない強制、土地収奪と農村経済の破壊による経済的強制、そして日本が素晴らしい場所であり忠良なる皇国臣民として、労働動員に応じなければならないという皇民化教育と圧力による心理的強制があったことが、丹念に論じられている。また、朝鮮人は当時「日本臣民」であったから、労働動員や徴用がなされたとしてもそれは日本人同様の義務である、という言説に対しても、労働実態において明確な賃金、待遇などの点で、民族差別と、それに基づく強制労働があったことを実証し反論している。
 私が、本書全体を読んで、感じたことは、朴慶植が指摘するとおり、在日朝鮮人の歴史・植民地支配と朝鮮人戦時労働動員(強制連行)とが強く結びついているということであり、「在日朝鮮人の民主主義的民族的権利を守」られるためには、朝鮮人強制連行説虚構論のような歴史修正主義的言説が横行することが決してあってはならない、ということであった。そして、戦時労働動員された朝鮮人はほとんど朝鮮に帰ったのだから、在日朝鮮人と朝鮮人戦時労働動員(強制連行)は無関係な問題であると考えてはならないと改めて思い知らされた。本書の最終章で指摘されているとおり、「朝鮮人戦時労働動員は戦時下の植民地他民族抑圧の一つの形態であった」のであり、在日朝鮮人形成とも結びついた植民地支配とどう向き合うかということを、朝鮮人戦時労働動員(強制連行)は突きつけているのである。それ故、「“連行がなかった”論」-「植民地化の実態を隠蔽する時代錯誤的な保守主義」-に私たちの実存をかけて抗することが、より重要で本質的なことではないかと強く実感させられる一冊だった。「強制的に」などの文言を狙い撃ちする、現在の歴史修正に対抗するためにも、運動を担う在日朝鮮人には是非推奨したい一冊である。


本の詳細は↓↓↓
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/0/0238310.html


以上で名心支部の書評発表を終わります!
今後も留学同東海では読書活動を積極的に行うので、また紹介する機会があれば掲載する予定ですのでよろしくお願いします(^O^)