前回の続きです。
(エブリスタより)
ある日、父がまた急に話を始める。
「お父さんが小学生の時にの、親(祖父母)が何故かワシの給食費を払ってなくてのう(ò_óˇ)」
父の話はいつも唐突である。
「それでのう…学校で担任に皆の前で『こいつは泥棒や』といわれての、皆の前でそんな事されて、お父さんは無茶苦茶悔しくて(担任に)腹が立ったんじゃ(ò_óˇ)」
「…? 何で払ってなかったん?(˘・_・˘)」
「それが分からんのよ。妹(叔母)の分は払っとるのに、ワシの分だけ払っとらんのじゃ(ò_óˇ)」
「……??( ・ω・)」
私も聞いていて意味がよく分からなかった。父だけ嫌われていた訳でもない。(母の話では特に祖母は父に対して溺愛だったらしい)
おそらく金が足りなかったのだろう、という話だが「父の分のみ」というのが父自身にとっても何とも不可解だったそうだ。
だが、父の話の「本番」はその先だった。
「それでお父さんはのう…火薬運びの仕事をしたんや(ò_óˇ)」
「……???(‘◉⌓◉’)」
聞いていた私は、益々意味が分からなくなった。
父は「その時の仕事」についての話を続ける。
「お父さんは大人と一緒に穴の中で1列に並んで座ってのう、手渡しで火薬を穴の奥に運んでいったんや。その火薬が時々どっかで漏れての、それが電球に当たって『ボンッ』って割れる音がしよるんよ!( ゚∀ ゚ )」
「えっ!爆発するん?(‘◉⌓◉’)」
「そうやのう、爆発やのう!『ボンッ』ってのう!( ゚∀ ゚ )」
…と、面白そうに語る。
そう、「面白そうに」語っているのだ。
父はこの時、苦労話ではなく「お父さんは子供の頃にこんな事をしたぞ」という話をしていているつもりだったのだろう。実際、その時の父の顔に悲壮感らしきものが全くなかった。
「何故そういう事をしたか」、その理由説明の為に先に「給食費」の話をした…といったところか。そしてその話の締めとして
「それでお父さん金稼いでの、学校で担任に『給食費じゃ!』って全部払ってやったわい!( ゚∀ ゚ )」
…と、「してやったり」と言わんばかりの顔で語る。
そして父は当時10歳、小学5年生だ。
父の話しぶりを見て、私も「苦労話」のイメージが湧かなかった。父自身、そういうつもりで話したのではなかったろうが、この話を「理解」出来たのはかなり後の事だった。
皆の前で恥をかいて悔しかった。それで泣くどころか腹を立て、何と大人の現場で危険な仕事をして金を稼ぐ。そして自らの手で給食費を担任に突き出す。
とても10歳の子供の発想・行動とは思えない内容だ。「時代」というのもあろうが、破天荒過ぎる。しかも父本人にとってそれは単に「子供の頃の話」でしかない。
前述の「ニートは許さん」的な話も、父のこういった背景に裏打ちされている部分があるだろう。ただ言い方も内容も、小学生の頃の私には理解が追いつかず、成人するくらいの歳になってようやく理解した。
良い所もそうでない所も、人の3倍はあろうかという父だった。
「豪胆」を地で行く人だった。一方で理不尽な人でもあった。
そしてその父の「昔話」は、単に思い出話としてではなく、私の中に価値観として形を変えて根付いた。