エイジレスの346回 旭岳を染める彩雪の謎を探る
北海道最高峰である旭岳では、雪解けが進む春、低温環境でも生育できる氷雪藻(ひょうせつそう)が作る色素により、雪面が鮮やかに染まる「彩雪」という現象が起こります。
例えば,氷雪藻の光合成色素(葉緑素)は緑色に、補助色素(カロチノイド色素)の細胞内蓄積はオレンジや赤色に、それぞれ雪を彩ります。
氷雪藻は日本の高山でも長く観察されていますが,旭岳の彩雪がどのような微生物群集(氷雪藻などの集まり)によるものかは明らかになっていませんでした。
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彩雪現象を作り出す微細緑藻とその微生物群集を調査するため,北海道の大雪山国立公園に位置する旭岳で試料を採取し,6 月中旬〜下旬に赤雪と緑雪を確認しました。
それぞれのサンプルについて,微生物群集を比較しました。
まず藻類については,赤雪ではクロロモナス属に属する緑藻を複数種確認できたのに対して,緑雪では特定の一種が非常に高い割合で存在していました。
また細菌については,全てのサンプルにベータプロテオバクテリアの細菌が高い割合で確認できた一方,
赤雪のサンプルにはバクテロイデス門に属する細菌も多数存在しており,逆に緑雪ではほとんど検出されませんでした。
このように,赤雪サンプルと緑雪サンプルでは検出した微生物が異なりました。
バクテロイデス門は幅広い環境に分布する細菌グループであり,赤雪に検出されながら近辺の緑雪には検出されなかったことは不思議です。
この結果には藻類の種の違いや生理状態など様々な要因が考えられますが,今後の研究で明らかする必要があります。
微生物群集の解析のほか,採取した雪からの緑藻クロロモナス株の培養にも成功しました。
複数の摂取源から得られたクロロモナスの全ての株からベータプロテオバクテリアが検出されたことから,クロロモナスとベータプロテオバクテリア間で相互作用が起こっている可能性が考えられます。
培養実験を行ったところ,細菌がクロロモナス株から炭素源を得ていることの他,細菌がクロロモナスの増殖を促進していることが明らかになり,この相互作用は両者にとって有利であると考えられます。
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何の役に立つのかわからない感じの研究ですが、自然界では、細菌類と藻類が共生していることがあるのですが、要因が複雑すぎて、わかりにくいということがあります。
その点、雪の中だと、他の細菌や藻類がいないため、相互作用を解析しやすいということがあります。
すぐに、役立つとは思えませんが、こんな基礎研究が、薬の開発につながったり、自然環境の解明につながったりするものですので、温かい目で見守ってください。