エイジレスの345回 根の再生メカニズム 盆栽の科学

 

 

 「雑草のようにたくましい」という比喩にもあるように,引き抜いた植物(雑草)を放置しておくと,その場所に新たに定着していることがあります。

 

 これは,根を切断しても新しい根が再生することで,植物が新たに生活を営む例です。

 

 また園芸では,植物の移植や地上部の生育促進の技術として,
根の一部を切断する「根切り」がよく知られています。根切りは新しい根を人為的に発生させ,水や養分の吸収を促進させると考えられています。

 

 植物にとって根の障害は脱水という形で直ちに地上部に影響してしまう緊急事態であり,根を切られた植物はできるだけ早く根を再生しようとする性質があるため,園芸ではこのような植物の性質をうまく利用して植物を増やしたり,鉢での栽培を行っています。

 

 

 今回のお話は、農学的アプローチしかなかった盆栽の世界に、生命科学的手法でアプローチしようという試みです。

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(研究成果)
 根を切ると新しい根が作られると同時に,すでにある根の成長も促進されることがわかりました。


 また,根の再生には,11 種類あるオーキシン合成遺伝子YUCCA のうち YUCCA9 が特に重要な働きを示すことを,遺伝子発現,阻害剤,突然変異体の解析から明らかにしました。

 

 これらから,根切りが根のオーキシン量を増やしていると予想されました。

 

 そこで帝京大学理工学部・朝比奈雅志准教授の研究グループと共同研究を行い,根切りによって実際に根のオーキシン量が増加していることを確認しました。


 これらの結果から,オーキシン合成が根の再生に決定的な役割を担っていることが証明されました。

 

 また,オーキシン合成同様,根の再生においてもオーキシンの極性輸送が必要であることが遺伝子発現,阻害剤,突然変異体の解析で明らかになりました。

 


(今後への期待)
 「根切り」による傷害応答と根の再生のメカニズムは,シロイヌナズナのみならず多くの植物が共有している性質です。

 

 本研究で明らかになったメカニズムを応用することで,雑草を抜いても根が再生しない状況を作り出す,もしくは根に障害が起こってもさらに根の再生を促進させるなど,園芸や農業上の応用が期待されます。 

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 根の再生には、オーキシンという物質が必要です。

 

 オーキシン(英語 auxin)とは、主に植物の成長(伸長成長)を促す作用を持つ植物ホルモン群のことで、いくつかの種類があります。

 

 今回の研究では、オーキシンを植物内で合成する際に働く遺伝子が特定されました。

 

 つまり、特定した遺伝子を働かなくすると、雑草が増えるのを防止できますし、遺伝子を活性化させると、根の再生を促して、盆栽の植物が早く定着します。

 

 コントロールされる植物さんには、迷惑かもしれませんが、人にとっては有益な研究成果です。