エイジレスの344回 脳梗塞後の機能回復

 

 

 神経回路形成は、とっても複雑で、

 

①神経細胞の新生と分化・成熟、

②神経突起の伸長、

③回路を形成する結合相手の細胞(標的細胞)を見いだす軸索誘導現象、

④そして標的細胞との結合(シナプス形成)

 

といった一連の過程からなります。

 

 

 損傷や疾患で破壊された脳内の神経回路を再生するには、これらの素過程を再現する必要があります。

 

 しかし、損傷脳の脳内環境は、神経回路が形成される胎生期とは大きく異なり軸索再生阻害因子が多量に存在するため、再生は困難であることがよく知られています。

 

今回のお話は、非常に困難な脳梗塞後の機能回復のお話です。

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 まずはLOTUS が関与している可能性を調べるために、野生型マウスにおいて脳梗塞モデルを作製した後、LOTUS の脳内発現変動を解析しました。

 

 マウスなどの齧歯類では、損傷後に自発的な神経再生が起こり、或る程度の運動機能回復が見られる事が知られています。

 

 梗塞後、Nogo やNgR1 の発現は変化がありませんでしたが、LOTUS は6 週間目に梗塞巣の反対側の大脳領域で大幅な発現上昇が確認されました。

 

 これは、このLOTUS の発現上昇によって、障害を受けていない反対側の脳領域から軸索再生が起こるような自発的な神経再生が起きていると推測させる現象です。
 

 そこで我々は、遺伝子操作によりLOTUS を過剰に発現するLOTUS-Tg マウスを用いて脳梗塞モデル動物(脳虚血マウス)を作製し、虚血による損傷後の運動機能を調べました。

 

 すると、野生型マウス、LOTUS-Tg マウスとも梗塞領域の大きさには変化が見られないにも関わらず、損傷後12 週目からLOTUS-Tg マウスでは野生型マウスに比して顕著に運動機能が回復していることが判明しました。

 

この結果は、LOTUS の過剰発現によって運動機能を担う神経回路が修復されたことを示唆します。
 

 

 次に、LOTUS の過剰発現によって神経再生が誘起されているかを組織学的に検証しました。

 

 脳梗塞後、神経線維を染める神経トレーサーによって運動機能を担う皮質脊髄路(錐体路)を可視化し、LOTUS-Tg マウスと野生型マウスを比較したところ、LOTUS-Tg マウスでは、梗塞巣と反対側の神経線維(軸索)から梗塞巣側の失われた神経投射路に向けて、新たな神経線維が多数伸長している様子が観察されました(図)。

 

 即ち、LOTUS の過剰発現がNogo などの軸索再生阻害因子群の作用を遮断し、損傷で失われた神経線維投射を補う神経再生を誘起した結果、運動機能回復が促進されたものと考えられました。

 

 

 以上の結果、LOTUS は脳梗塞後の神経再生を促進する物質であることが明らかになりました。

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 つまり、神経回路形成因子LOTUS を過剰発現させることによって、脳梗塞後に運動機能を司る神経回路が再生され、運動機能が顕著に回復したということです。

 

 ロータスというと、車とか、パソコンのソフトなどを連想する方もおられるかと思いますが、脳医学の世界では、脳の機能を回復させる凄いやつらしいです。

 

 現在、リハビリで回復させている脳機能ですが、早くロータスの活躍を見てみたいものです。