エイジレスの340回 妊娠期に腹部の皮膚が広がる仕組み
皮膚は、外部からの刺激によってダメージを受けやすいため、
常に新陳代謝を繰り返すことで恒常性を維持しています。
新陳代謝のために新しい細胞を供給しているのが、表皮の深い部分に存在する表皮幹細胞です。
近年、皮膚の新陳代謝や創傷治癒における表皮幹細胞の役割が明らかになりつつあります。
一方、皮膚はライフステージごとの体形変化に応じて表面積を柔軟に変化させますが、生理的な体形変化に対して表皮幹細胞がどのように応答しているのかについては全く不明でした。
ということで、調べてみたのが、今回のお話です。
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今回の研究では、マウスを用いて、急速に拡張する妊娠期の腹部の皮膚に着目し、その拡張メカニズムを解析しました。
まず、妊娠期には腹部表皮の奥に高い増殖能を持つ細胞集団が出現することを見出しました。
マイクロアレイ解析とノックアウトマウスの形質解析により、転写因子である Tbx3が、妊娠期腹部表皮の基底細胞の増殖と皮膚拡張に必須であることを明らかにしました。
Tbx3 陽性細胞は、表皮幹細胞が表皮と真皮の間にある基底膜に対して水平に非対称分裂あるいは対称分裂分化することにより作られ、Tbx3 陽性細胞がさらに水平分裂を繰り返すことにより、妊娠期の急速な表皮拡張を可能にしていることが分かりました。
さらに、妊娠期には真皮に存在するα-SMA/Vimentin陽性細胞が Sfrp1、Igfbp2 というタンパク質を分泌し、表皮幹細胞から Tbx3 陽性細胞の産生を促進することを明らかにしました。
更に、Tbx3 陽性細胞は創傷時にも出現し治癒を促進すること、Sfrp1や Igfbp2 を注射することで治癒が促進されることが分かりました。
波及効果、今後の予定
本研究により、表皮幹細胞から産生される、増殖性の高い新規の細胞集団の存在が明らかとなりました。
この細胞集団は、妊娠期の皮膚拡張や創傷治癒に必須であったことから、皮膚の拡張時に重要な役割を果たすと考えられます。
増殖性の細胞集団の産生は、真皮の分泌因子によって誘導で
きたことから、再生医療への応用展開につながると期待しています。
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すぐに目に付く場所にありながら、その全容が分かっていなかった皮膚の仕組みの一端が、明らかになりました。
皮膚は、その100%が細胞なのに、わかっていないことが、まだあるようです。
美容の観点からも気になる話かと思いますが、ようやく、皮膚のリターンエイジングの実現可能性が高まってきたのかなという印象です。
実用化されるまでは、化粧品メーカーさんの言うことに騙されないように、自分に合ったものを選んで、少しでも老化を防いでいてください。
キーワードは、とにかく、「代謝」です。