エイジレスの317回 羊皮紙巻物についた紫色のシミの原因
古い羊皮紙文書は微生物に侵されることが多く、その結果として紫色のシミが生じ、羊皮紙の表層がはがれて、文書の可読性が損なわれます。
なので、専門家の方たちには、長年の悩みの種でもあります。
今回は、一般の方には、全く興味がないと思われる古い羊皮紙文書の修復と保全についてのお話です。
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A. A. Arm. I-XVIII 3328は、西暦1244年に列聖調査のために作成された長さ5 mの羊皮紙文書で、男を誤って殺してしまったLaurentius Loricatusという名の若い兵士の話が記されている(列聖とは、信仰心の厚い教徒などを聖人として認定すること)。
この兵士は、罪を償うため、その後34年間にわたってスビアコ(イタリア)近くの洞窟に引きこもった。
ところが、この羊皮紙文書は紫色のシミに覆いつくされ、羊皮紙のコラーゲン構造が損傷し、文書の可読性が著しく損なわれている。
この羊皮紙の損傷は、この巻物が18世紀末にバチカン秘密文書館に移される前に生じた可能性が非常に高い。現在、この巻物は、管理された環境条件下で保管されている。
今回、Miglioreたちは、この羊皮紙の巻物に棲みついている微生物群集の遺伝的解析を行った。
その結果、紫色のシミからガンマプロテオバクテリアが検出されたが、シミのない部分からは検出されなかった。
Miglioreたちは、この羊皮紙の劣化が微生物遷移の過程で起こったと考えられ、つまり、紫色のシミを作り出すロドプシンを産生する好塩性細菌がガンマプロテオバクテリアに置き換わり、紫色のシミだけが残ったという仮説を示している。
また、Miglioreたちは、今後の研究の積み重ねが、紫色のシミの原因であるロドプシンを産生する微生物の正確な塩基配列の解明に役立ち、このように損傷した文書の修復に役立つ新しい方法の発見につながる可能性があるという考えを示している。
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古文書がバクテリアによって、劣化していくことはよくあることのようですが、やっかいなのは、そのバクテリアの種類が何万種類もあることです。
現象からだけでは、バクテリアの種類が特定できませんし、相手がわからないと対処法もわからないみたいなことになっているようです。
それでも、これまでの研究で、多くのバクテリアが特定されてきたようですが、種類が多いだけに、今回のような話は、まだまだ続くような感じです。
古い文書などをお持ちでない限り、お役に立てる情報ではないかと思いますが、人知れず、頑張っておられる研究者の方にエールを送ってください。