エイジレスの309回 パーキンソン病の新たなメカニズムが明らかに

 

 

 パーキンソン病は、世界中で約一千万人の人々が罹患している神経疾患で、日本人の1000人に1~1.5人(60歳以上では100人に1人)が発症していると言われています。

 

 この病気は進行性の運動機能障害と、典型的症状としての制御不能な震えを特徴とし、中枢神経細胞の機能障害、次いで神経変性、細胞死をもたらすものです。

 

 この病気に根治療法はなく、研究者は長年、病因の解明に取り組んできましたが、1990年代に、この研究分野に飛躍的進歩があり、タンパク質αアルファシヌクレインの過剰がパーキンソン病の発症に関わることが明らかになりました。

 

 αシヌクレインは通常、主として脳に発現しており、特に神経細胞の軸索終末端に局在する機能不明のタンパク質です。

 

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1. αシヌクレイン過剰によって神経伝達の

   持続維持が損なわれることを発見

 

 神経伝達は神経細胞間の接点、シナプス、で運動、知覚、認知などに必要な信号を受け渡すプロセスです。

 

 活動電位の信号が神経末端に到達して、次のニューロンに受け渡される際に、小胞内に充填されている伝達物質がこのプロセスを媒介します。

 

 小胞は脂質膜の袋で、伝達物質は小胞内からシナプス間隙(ニューロン間の隙間)に放出され、空になった小胞は、神経末端内に回収されて、再利用されます。

 

 一方、シナプス間隙に放出された伝達物質は次のニューロンの受容体と結合することによって信号を受け渡します

 

 小胞膜の回収は「エンドサイトーシス」と呼ばれ、このプロセスが過剰のαシヌクレインによって障害を受けます。

 「神経末端のエンドサイトーシスが抑制されると、小胞リサイクリングが失速し、小胞の供給が不充分になります」と高橋智幸教授は説明します。

 

 「小胞を適度に使っているときは問題ありませんが、大量に使われる場合に問題が生じます」。

 高頻度神経伝達は、知覚認知、記憶形成、運動制御にとって重要ですが、このような場合に小胞が大量に使われます。

 

 研究チームは、αシヌクレインによってエンドサイトーシスが抑制されると、高頻度神経伝達が正常時のように維持できなくなることを見出しました。

 

また、過剰αシヌクレインの毒性メカニズムも解明しました。

 

今回の研究成果のインパクト・今後の展開 

 今回の研究成果がパーキンソン病の治療法の開発に役立つかどうかという問いに対して、高橋教授は、「シヌクレインの第一標的が分かり、そのメカニズムも分かって、目標に近づいています。

 

 しかし、研究成果を治療法の開発につなげるためには、過剰の微小管がエンドサイトーシスを妨げる仕組みの詳細を更に明らかにする必要があります」と答えています。

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 パーキンソン病のすべてのメカニズムがわかったわけではありませんが、確実に研究が進んでいるようです。