エイジレスの304回 「ひも」を使って、ヒトiPS細胞の高効率培養に成功!

 

 

 再生医療は、将来の医療の切り札的存在ですが、実用化に向けては、まだまだ、解決しなければならない問題が多いようです。

 

 今回のお話は、 ヒトiPS細胞の大量生産に向けた技術開発のお話です。

 

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 ヒトiPS細胞は、

 

 自分のコピーを無限に作製する「自己複製能」と、

 

 体の中のあらゆる細胞に分化できる「多分化能」を

 

 有しており、再生医療のための細胞の供給源として期待され、世界的に研究が進められています。

 

 ヒトiPS細胞の再生医療の実用化にむけて、現在重要な課題のひとつとしてあげられるのが、大量のヒトiPS細胞を確保するための培養法です。


 再生医療にはしばしば大量の細胞の移植が必要になります。

 

 例えば、パーキンソン病治療のための神経細胞や、網膜変性症の治療のための網膜の細胞は、一人あたり10の5乗個程度の移植で十分ですが、糖尿病・心筋梗塞・肝不全への移植治療となると、必要な細胞数は約10の9乗個~10の10乗個にまで増えます。

 

 さらに、5Lの輸血に用いる赤血球を作製すると、一人あたり約2×10の13乗個も必要です。

 

 ここに、ヒトiPS細胞から目的の細胞種へ誘導する効率も加味することになるため、実際に必要なヒトiPS細胞の数はこれ以上になると考えられます。


 現在、ヒトiPS細胞を用いた基礎研究は、比較的少数の細胞で行われており、伝統的に二次元培養法という、シャーレの底面に細胞を付着させ増殖させる、安定的で簡便な培養法を用いています。

 

 しかし、シャーレ1枚あたりに得られる細胞数は約10の6乗~10の7乗個のため、この培養法をそのまま医療応用に用いると、一人の患者の治療のために、シャーレを数千~数万枚規模で扱わなければなくなり、それだけの培養を行うスペースや、管理を行う人件費が膨大になる上、細菌の混入リスクも増加するため、現実的ではありません。


 そこで、医療応用のためのヒトiPS細胞の大量培養手段として、細胞を培地中に浮遊させながら増殖させる三次元培養法を用いたアプローチが取られています。

 

 三次元培養法の利点として、そのコストパフォーマンスの良さが挙げられます。

 

 例えば、二次元培養法のシャーレに小分けすると10万枚にもなる1トンの培地は、縦横高さ全て1mの立方体状タンクひとつに収容でき、非常にコンパクトになります。さらに、細胞を一括して扱えるため、品質管理や自動化にも向いており、人件費も大きく減らせます。


 ただし、ヒトiPS細胞の三次元培養法には二次元培養法にはない欠点もあります。

 

 ヒトiPS細胞の三次元培養では、細胞を培地内に懸濁させ、その培地ごと撹拌しながら培養する手法(懸濁培養)が多く用いられています。

 

 このとき、ヒトiPS細胞は自発的に凝集塊を形成し増殖しますが、過剰な細胞の凝集や、凝集塊同士の凝集が起こりやすく、大きな凝集塊の内部に栄養や酸素が行き届かなくなり、細胞死や品質の低下、ひいては増殖率の低下などが起こることが問題でした。
 

 そのため、大量培養法としてのヒトiPS細胞の三次元培養法は、いまだ定まりきっておらず、基礎研究から医療応用までには、数的質的ともに大きな隔たりが存在しています。

 

 基礎研究の発展にもかかわらず、それを医療応用までつなぐための培養法の未確立が、再生医療実現のためのボトルネックとなっているのが現状です。

 

 したがって、ヒトiPS細胞としての性質を保ったまま、効率よく増やすことのできる三次元培養法の開発は急務といえます。

 

 

<ポイント>

◆細胞ファイバ技術を用いて、内部にヒトiPS細胞を封入したアルギン酸ゲルの中空状マイクロファイバ(ヒトiPS細胞ファイバ)を作製し、培養することに成功した。


◆ヒトiPS細胞は本研究の培養法を用いることで、極めて効率よく増殖し(4日あたり平均約13~14倍)、その性質を長期に維持できることが明らかになった。
 

◆ヒトiPS細胞を用いた再生医療の基盤技術として、利用されることが期待される。

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 長いお話でしたが、iPS細胞を使った再生医療は、研究者も多く、予算もつきやすいので、順調に研究が進んでいるようです。

 

 が、やはり、医療分野は、臨床試験など、越えなければならないハードルが多すぎるので、実用化には、多くの時間と手間と費用がかかります。

 

 恩恵を期待されている方は、なるべく長生きしてください。