エイジレスの294回 世界で初めて兵隊フェロモンを特定
動物の世界において、同じ種の他の個体に対して、ある特定の行動や生理的変化を引き起こす化学物 質はフェロモンと呼ばれています。
動物の中でも、嗅覚や味覚に大きく依存した生活を営む昆虫では、 フェロモンは極めて重要な物質であり、交尾相手の探索や、同種同士の集合、天敵からの逃避など、様々 な場面においてフェロモンが用いられています。
特に、社会性昆虫(アリ・ハチ・シロアリ)は数多く の種類のフェロモンを用いていることが知られており、採餌や繁殖、巣の建設、カースト(特定の役割 に特化した個体の集まり)分化の制御など、全ての社会活動にフェロモンが関わっていると考えられて います。
(中略)
本研究により、世界で初めてシロアリで兵隊フェロモンが特定され、このフェロモンには複数の機能 (兵隊アリ分化抑制、働きアリ拘束、抗菌作用)があることが明らかとなりました。
このことは、ヤマ トシロアリの兵隊アリは (−)-β-エレメンを分泌することで、新たな兵隊アリが分化してくるのを抑制す るだけでなく、働きアリの世話を受ける必要のある時に働きアリを引き留め、なおかつ巣内で病原菌が 蔓延るのを防いでいることを示しています。
本研究成果は、兵隊アリで特異的に生産されていた抗菌物質が、フェロモンとしての機能をもつよう になったことを示唆しています。
また、これまでシロアリの兵隊アリは天敵から巣を守る役割としての み考えられてきましたが、本研究によって病気から巣を守る化学的防衛の役割も担っていることが分か りました。
今後、さらに様々なフェロモンの起源を探っていくことによって、社会性昆虫の役割分業の 進化や、その制御に関わる分子メカニズムの理解が深まっていくと期待されます。