エイジレスの241回 不安で眠れないとき、脳では何が起きているのか
動物の睡眠と覚醒の状態は、体内時計や先行する覚醒の長さ(睡眠負債)の影響を受けて変化します。
それらに加えて、生体内外の環境によっても大きな影響を受けます。
環境中に恐怖や報酬の対象となるものが存在することで生じた情動は、交感神経系の興奮やストレスホルモンの分泌とともに、覚醒を引き起こします。
一方、明確な対象のない、漠然とした不安も覚醒に影響し、こうした情動が不眠症の根底にあることがよく知られています。
しかし、実際にどのような神経科学的なメカニズムがそこに介在しているかは、これまで明らかになっていませんでした。
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(前略)
これらの結果から、次の2点が明らかとなりました。
①ノンレム睡眠時に分界条床核の GABA 作動性ニューロンが興奮すると覚醒が引き起こされるが、ここにはオレキシンの作用は介在しない。
②分界条床核の GABA 作動性ニューロンが持続的に興奮するとオレキシン系が動員され、その作用によって覚醒が維持される。
以上、本研究により、不安などの情動に大きく関与する分界条床核における GABA 作動性ニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が判明しました。
GABA は、抑制性の神経伝達物質で、その機能を脳内で広範に高めると抗不安作用、催眠作用があるとされています。
しかし今回の実験では、分界条床核など一部の脳の領域ではむしろ覚醒に関わっていることも示されました。
現在、オレキシン受容体拮抗薬が臨床的に不眠症治療薬として使われるようになっています。
本研究により、同治療薬は、持続的な不安にもとづく不眠を改善する効果がある一方で、情動による即時の覚醒応答自体には影響を与えないことが確認されました。
したがって同治療薬を服用していても、たとえば、就寝時に危険が発生した際の覚醒を妨げることはないということも示唆されました。
<今後の展開>
不眠症の根底には不安が存在することが多く、そのメカニズムには分界条床核やオレキシンが関与していることが示唆されました。
今後、これらの領域をターゲットとすることで、不安障害や不眠症などに効果のある医薬品の開発につながるかもしれません。
また、オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症治療薬として実用化されており、その詳しい作用メカニズムを理解するうえでも重要な知見となると考えられます。
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不安で眠れない日が続くと、体の調子も悪くなってきます。
お薬ができるまでは、現在の対処法で、何とか頑張ってください。