エイジレスの232回 体内時計が温度に影響されない仕組み
地球上の生物には、ほぼ1日の周期で繰り返される体内時計が存在しています。
体内時計は、睡眠覚醒や成長ホルモン分泌などのタイミングや、血圧・体温調節などの生理活動を厳密に制御しています。
生物は、時刻によって変化する外部環境に積極的に適応することで、繁栄し続けるように進化してきたといえます。
体内時計を動かしているのは、多数の体内時計遺伝子による遺伝子活性のリズムです。
このリズムは、体内の合成・分解などの化学反応によって作り出されています。
化学反応の速度は一般に、温度が上昇すると速くなります。
そのため、体内時計の周期は温度が高くなるほど短くなりそうですが、実際にはほぼ一定です。
この性質は「温度補償性」と呼ばれ、半世紀以上にわたって謎とされてきました。
共同研究チームは、体内時計遺伝子やタンパク質の1日のリズムを記述する「数理モデル」を用いて、体内時計の周期が一定に保たれる条件を探しました。
その結果、温度上昇とともにリズムの“振れ幅”を大きくする必要があることを発見し、その性質を「温度-振幅カップリング」と名付けました。
実際にラットの培養細胞を用いて、35℃と38℃でCry1遺伝子やPer2遺伝子などの主要な体内時計遺伝子の活性リズムを計測したところ、38℃のときの方がより大きな振れ幅のリズムを刻んでいることが分かりました。
今後、さまざまな生物種でこの温度補償性の仕組みを研究することで、体内時計の設計原理の進化が明らかになると期待できます。