エイジレスの196回 絶滅危惧種のiPS細胞から卵子と精子
iPS細胞の技術は、ヒトの再生医療という点からも注目の技術ですが、絶滅危惧種を絶滅から救う手段としても、期待されています。
しかし、現在のところ、ES細胞を使って、近い種のお腹で育てて、クローンを作るというところまでは成功しているものの、マウスやラットなどの実験動物、数種類に限られます。
一方、レッドリストに乗っている野生生物は、16,000種ほどあって、今後、地球温暖化や環境破壊などの影響で、凄い勢いで、種の絶滅が進むものと懸念されています。
なので、あらゆる生物に応用可能なクローン技術の開発が試みられています。
今回の論文は、iPS細胞を使って卵子と精子を作り出すという汎用的な技術に繋がりそうな技術です。
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ポイント
● 絶滅危惧種のアマミトゲネズミからiPS細胞を樹立
● アマミトゲネズミiPS細胞とマウスの異種間キメラを作製
● 絶滅危惧種一個体のiPS細胞から卵子と精子を作出することに成功
● XO型メスの細胞は卵子だけでなく精子にも分化できることを発見
哺乳類の雌雄は性染色体によって規定されています。メスならばXX型、オスならばXY型であり、オスになるためにはY染色体(の遺伝子)が必要不可欠です。
奄美大島のみに生息する国の天然記念物で絶滅危惧種のアマミトゲネズミは、進化の過程でY染色体を失っており、極めて稀な性染色体構成をもつ(雌雄共にXO型)ため、ゲノムの雌雄差がほとんど見いだされていない、不思議な動物です。
(中略)
これまで、マウスとラット以外のiPS細胞がキメラ※1として成体に寄与し生殖細 胞にまで分化した例はなく、また絶滅危惧種の細胞を体に含む個体が作製され たのも世界で初めてです。
さらに驚くべきことに、メスのアマミトゲネズミiPS 細胞がオスのキメラに寄与した場合、精子にも分化していました。
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ということで、一個体から、卵子と精子を作り出すことに成功したということで、クローン生物をより作りやすくなったとのことです。
さらに、今回は、絶滅危惧種を使った研究であり、他の絶滅危惧種への適用も期待できるという事です。
(用語説明ほか)
1.キメラとは一つの個体内に異なる遺伝情報をもつ細胞が混
ざりあった状態、あるいはその個体のことをいいます。
異種間キメラとはマウスとラットなど、別の動物種の細胞が混ざり合った一つの個体のことを意味し、これまでiPS細胞で作製された異種間キメラで、成体にまで成長したのはマウスとラットの異種間キメラのみです。
2.『 iPS細胞樹立から貴重な生物資源の保存へ』
本研究では、絶滅危惧種アマミトゲネズミのiPS細胞から卵子と精子を生じさせることに成功しました。
今後は他の絶滅危惧種への展開も期待されます。しかし、iPS細胞から卵子や精子を作製し、さらに個体を作出するのは、現在の技術では非常に困難です。
この実現にはさらなる研究の発展が必要不可欠です。また、もしも将来個体が作出されたとしても、その個体は貴重な生物資源として厳重に管理された屋内環境などでのみ、復活・飼育されるべきです。
そのような個体を野生に放つような展開は、野生個体群へ
の新たな悪影響を与えかねないため、現段階では絶対に行われるべきではありません。絶滅危機への最も有効な手段は生息域内での保護活動に他なりません