171回 悪者扱いされている活性酸素ですが・・活性酸素の精子幹細胞に対する増殖促進作用を解明
以前、活性酸素が、植物の病原菌退治の最前線で、働いているというお話をしましたが(145回)、今回は、少子化対策にもなるかもしれないような、活性酸素の働きのお話です。
元々、ヒトの身体の中でも、免疫機能の重要な一部として働いている活性酸素ですが、過剰な活性酸素が、身体を錆びさせて、結果的に、老化を促進しているのは、間違いのない事実のようなので、今更、弁護しても遅いかもしれませんが、今回のお話は、かなり、情状酌量しても良いかな~なんて、思わせるお話です。
まずは、活性酸素のお話からです。
活性酸素とは、O2-、H2O2、HO・などの原子状態が不安定であるために化学反応性が高い酸素分子の総称です。
体内に入った酸素は体の中でエネルギーを生み出す過程で、その一部がこうした反応性の高い活性化型の酸素に変化します。
できあがった活性酸素は細胞内の情報を伝達するメッセンジャーとしての役割をもつとともに、その制御の異常は細胞膜に損傷を与え、細胞内の酵素を不活性化し、DNAの断片化を誘導します。
そのため活性酸素はアルツハイマー病などの変成疾患を引き起こすのみならず、老化やがんの誘因として重要な役割を担っていると考えられています。
(やっぱり、悪い奴です!)
では、論文をどうぞ
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生殖細胞においては、活性酸素による酸化ストレスは発生過程の卵子の染色体異常や受精後の細胞死に関与することが知られていました。
特に雄の生殖細胞では成熟した精子を含め、さまざまなステージの精子形成細胞にダメージを与え、男性不妊症を引き起こすことがこれまでの動物実験で明らかになっています。
(中略)
活性酸素の低下は試験管内で培養された精子幹細胞の増殖を抑制するのみならず、適度な量の過酸化水素の添加は幹細胞の増殖を促進する作用をもち、過酸化酸素で長期間培養された幹細胞からは正常な産子を得ることができました。
生体内においても活性酸素の低下は精原細胞の増殖低下をおこし、活性酸素の産生に寄与するNADPH oxidase1(NOX1)分子欠損マウスでは幹細胞の自己複製能力が著しく低下していることが分かりました。
(中略)
不妊男性の活性酸素を低下させると幹細胞の能力が低下し、必ずしも精子形成全体には良い影響があるとは言えないことを示唆します。
その点で今回の成果は不妊患者への治療のあり方を幹細胞のレベルから新たに見直す必要があることを示唆するものです。
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男性に対する不妊治療において、精子幹細胞レベルで検討されたことはないようでして、色んな治療を試してみても効果がなかった方は、活性酸素不足だったかもしれません。
過ぎたるも足らざるも良くない生命の世界ですが、精子の増殖に活性酸素が関与しているのは、想像さえもしていなかったので、かなりの驚きです。
お近くに不妊で悩まれておられ方がいましたら、ぜひ、教えてあげてください。
活性酸素を増やすのなんて、ちょいと激しい運動をすれば、簡単に増えますので・・
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