164回 受粉しなくても実がなるトマト

 

 

 イチゴやトマトなどの果物や野菜の場合、虫が、花粉を運んで、めしべにくっつける(受粉)という作業が行われないと、実を付けることはありません。

 

 虫の中でも、蜂を使った受粉は、ハウス農業には欠かせない存在となっています。

 

 ところが、2006年秋ごろから、セイヨウミツバチが一夜にして大量に失踪する現象が米国各地で発生、その数は米国で飼われているミツバチの約4分の1にもなりました。

 

 同様の現象は、その後、ヨーロッパに広がり、日本でも、とは、ミツバチが原因不明に大量に失踪する現象が起きました。

 

 原因としては、病気、農薬、気候変動など色々言われましたが、はっきりしていないようです。

 

 で、そんな事態が続くと、農産物の生産にも影響が大きいため、その対策として、研究が進められてきたのが、今回ご紹介する論文、「受粉なしで実がなるトマト」です。

 

 では、論文をどうぞ

 (難しいので、読み飛ばしてもいいです)

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 近年、標的とする遺伝子を改変する技術として、部位特異的人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集技術が様々な生物で利用されています。
 

(中略)

 

 有用な農作物の一つであるトマトの栽培は低温や高温による着果不良の問題が知られており、安定的な果実生産のためには様々な方法がありますが、その一つとして植物ホルモンのオーキシンによる前処理1が用いられてきました。

 

 単為結果性トマトは受粉処理などの手間を省くことができるため、大量生産における省力化、安定生産に繋がります。

 

 トマトの受粉・着果に関わるオーキシンシグナル伝達経路では、トマトINDOLE-3-ACETIC ACID 9(SlIAA9)が転写抑制因子 2として働きます。

 

(中略)

 

 この度、徳島大学大学院社会産業理工学研究部 刑部敬史教授および筑波大学生命環境系 江面浩教授らのグループは、CRISPR/Cas9 システムを用いて IAA9 遺伝子をノックアウトすることにより、人為的に単為結果性トマトを作製することに成功しました。

 

 CRISPR/Cas9 ベクターの最適化を行い、トマトにおける高い効率かつ正確なゲノム編集技術を確立しました。 

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 要は、トマトの受粉や着果に係わる遺伝子がわかって、それを制御できるようになったということです。

 

 虫による受粉は、どうしても、ばらつきが出てしまって、農作物の歩留まりに影響してくるため、人工授粉などが用いられることもありますが、やっぱり、蜂による受粉がよろしいようでなのですが、今回の研究は、そのあたりの事情に影響がでてきるかもしれません。

 

 先に述べた蜂の問題は、まだ、破滅的な状況ではないようですが、今後、地球環境が変化していくに従って、問題が大きくなることも考えられますので、その時の保険として、今回の研究は大いに意義があります。

 

 また、食料不足の地域においての農業生産や、農作物の歩留まり改善にもつながりますし、トマトは、アンチエイジングにも欠かせない食材ですので、今後のさらなる研究に期待したいところです。