第72回 若返り薬と言われた薬たちの今 (ラパマイシン編)

 

 

 1972年にイースター島の放線菌Streptomyces hygroscopicusから発見された物質で、当初は、抗真菌剤(抗生物質)だったとのことです。

 

 その後、強力な免疫抑制作用と抗増殖作用が発見されて、1999年には、薬として認可されたのですが、話題になったのは、2009年に、マウスを使った実験での研究成果でした。

 

 オスでは9%、メスでは13%も寿命が延びることが判明し、大きな話題となりました。また、ショウジョウバエを使った実験でも寿命延長効果が確認されたとの報告がありました。

 

 その後、目立った報告もなく、鳴りをひそめていたような感じだったのですが、昨年、犬に対する効果についての報告がなされて、年老いた犬の心臓機能が若返り、大幅に向上したという報告があり、またしても、注目を浴びることとなりました(その筋の人たちに・・・)。

 

 数年以内に、人への効果について、臨床試験が行われるらしいので、期待して待っておきましょう。(待てない方は、自己責任で、試してください)

 

 

若返り薬「ラパマイシン」の効能

 

1.平滑筋増殖抑制作用、がん抑制作用

 リンパ脈管筋腫症、主に30歳前後の妊娠可能な年齢の女性に発症し、LAM細胞が肺や縦隔のリンパ節で増殖し病変を形成する疾患とのこと。

 

 筋腫は、広く言えば、ガンの仲間で、悪性の細胞が増えていく病ですが、ラパマイシンは、腫瘍が増殖するのを抑制する効果(mTOR阻害)が認められて、薬として使われています。

 

 余談ですが、mTOR阻害による抗がん効果としては、メトホルミン、冬虫夏草に含まれるコルジセピン、黄連に含まれるベルベリン、丹参に含まれるクリプトタンシノン、ウコンに含まれるクルクミンにmTOR阻害作用が報告されています。

 

 

2.免疫抑制作用

 ラパマイシンのmTOR阻害作用が、免疫抑制にも効果があり、手術後の免疫抑制剤としても使われているようです。副作用が少ないことが特徴のようです。

 

 

3.寿命延長効果

 前述したマウスでの実験では、人に換算すると60歳ぐらいのお年寄りマウスを使った実験で、若返りまでは確認できていないようですが、何歳になっても効果が期待できるような感じです。

 

 最新の犬での実験では、心臓の機能ではありますが、若返りとも思えるような機能回復効果が得られたとのことですので、期待が持てます。

 

 

エイジングレスリターンエイジング

 

 若々しい見た目、がんなどの生活習慣病のかかりにくさ、ひいては寿命の延長など老化に関係している遺伝子の一つがSIR(サーチュイン)で活性化させると、リターンエイジング効果(若返り効果)が現れます。(※マウスでの話です。人への臨床は、現在進行中です。)

 

 サーチュイン遺伝子は、Sirt1~Sirt7まであり、前々回お話ししたレスベラトロールグレリンは、主に、Sirt1を活性化させる作用が、第38回でご紹介したNMNは、Sirt1~7の全てに作用することが確認されています。

 

 一方、抑制するとエイジングレス作用が現れるプロテインキナーゼ(たんぱく質の酵素)にmTOR(エムトール:「ラパマイシン標的タンパク質」の略)があります。

 

 ラパマイシンは、その名が使われている通り、mTOR阻害によるエイジングレス物質の代表みたいなものでして、人への科学的効果の検証は、これからとは言え、既に、薬としては人に使われていて、副作用も少ないとのことですので、大いに期待できます。