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『リサーチングマーケター™』が綴る、定性マーケティング徒然草

メーカー、IT企業、マーケティングリサーチ等の業界で、商品・事業企画、マーケティング戦略立案、定性調査・行動観察を行ってきた『リサーチングマーケター™』スタイリー・イノウエがマーケティングとリサーチへの想い、ノウハウを徒然なるままに綴ります。

さて、件の記事からですが、さらにMROCの特長として、従来の定性調査にあった制約が取り除かれていることという記述があります。

これを一つずつ検証してみます。
これはMROCという手法を否定するためではなく、その真のメリットを明らかにするためであり、また、定性調査そのものへの誤解を解くためでもあります。

記述には、まず、「匿名性が担保されているから本音が出やすい」とあります。

例として、コンプレックスやお金に関する題材を扱いやすいとあります。

しかし、このシリーズの最初に私の体験として実例を挙げたように、対面してのグループインタビューでもそのような話題は十分に扱えるというか、むしろ、本音の、非常に深い情報が得られることが多いのです。

この場合、匿名でないことが問題になるというのは、自分の知人、身の回りの人にプライバシーに関することが知られてしまうからであることは明らかです。要は、そういう人がいないことが担保されているというのが、事の本質だということです。

MROCの場合には、本当は知った人が混在しているかもしれないのですが、見た目では誰が居るかわからないので、プライバシーの保全のために偽名、ハンドルネームを使っている、ということが本質でしょう。むしろ誰が見ているかわからないという点においては、不安は、リアルより大きい場合もあるでしょう。

一方、その場で話せば、後はどこのだれかもよく知らない、グループインタビューの出席者同士というのは、直接対面していても、そういう意味での 「匿名性」=「プライバシーの保全」は存在するのです。だから、本音を話せるのです。むしろ、知らない相手しかいないことが明らかなので、かえって安心できる場合もあるでしょう。

したがって、GDIでは、同一グループに知人を入れるということは基本的に避けるべき原則とされています。

つまり、参加者間の「匿名性」というのは、リアルのインタビューでも同様に存在する条件なので、これがMROCの特長だとはいえないということです。
また、それを根拠にしている「本音が出やすい」というのも同様に特長とはいえないわけです。

そもそも、従来の定性調査でも、調査主体以外に個人情報を明かすものなどありませんし、調査の場でのやり取りは、その場だけで収めるということが約束事です。この筆者は、何か、匿名ではない意見表明の場と、消費者対象の定性調査の場を混同しているように見えます。

さて、リアルのインタビューでそのような「本音」が出る条件というのは、「匿名」だからではなく、むしろ、出席者同士が「同質」であることにあります。同病相哀れむというのは、その象徴的表現です。そのために、リクルートには細心の注意を払うわけです。同一グループには、社会的階層が極めて違う人や、商品評価の場合はユーザーとノンユーザーなど、異質な人を混在させることは原則として行いません。また、インタビューの導入での自己紹介や趣旨説明において、優れた司会者は、そのグループの同質性を、出席者に明示的、暗示的に感じさせることによって、いわゆるラ・ポールを形成していきます。それが発言、ひいては本音の吐露を促進することは言うまでもありません。

しかし、この原則はMROCにも同様にあてはまると考えられます。すなわち、匿名であったとしても、思わず本音を漏らし、話がさらに深まっていくのは、参加者の間に同質性がなければならないということです。そうでなければ、わざわざそんな発言はしないか、しても、そこから参加者同士のコミュニケーションが発生するということは起きにくいでしょう。自らのコンプレックスを刺激するような発言を見ると、MROCであっても、わざわざ自らのそのコンプレックスを表明するようなことが起きにくいのは、常識的に理解できるはずです。

この「参加者同質」の原則は、本音を引き出し、参加者同士のコミュニケーションでインサイトを深めていくためには、リアルでもMROCでも同様に守られるべき原則ではないでしょうか?

つづく・・・