帰り道、コンビニの灯りがやけに明るかった。
一日を振り返ると、
小さなミスがひとつだけ浮かんでくる。
それだけなのに、なぜか気持ちが重い。
足を止めたガラス越しに、
自分の顔がぼんやり映っていた。
そのとき、頭の中で声がした。
「やっぱりダメだな」
その一言だけが、なぜか心に残った。
気づくと、わたしの中には
黒いローブを着た“裁判官”が座っている。
机を叩きながら、
淡々と判決を下してくる。
「証拠は十分だ」
「今回も失敗だ」
まるで、ずっと前から
わたしを裁く準備をしていたみたいに。
奈央は、隣でコーヒーを持ちながら
その様子を見ていた。
「その人、ずいぶん忙しそうだね」
そう言って、少しだけ笑う。
裁判官は、また机を叩こうとした。
でもその手が、ほんの少しだけ止まった。
奈央は続ける。
「その人がいなくなったら、困る?」
わたしは少し考えた。
いなくなったら、静かになる。
たぶん、少し楽になる。
その瞬間、裁判官の椅子が、
少しだけ遠くに動いた気がした。
コンビニの灯りが、
さっきよりやわらかく見える。
わたしは深く息を吸って、
そのまま歩き出す。
その声は、本当に必要な声だろうか。
それとも、
ただ昔からそこに座っているだけの人だろうか。
コンビニの光の中で、
彼女はしばらく立ち止まっていた。
さっきまで胸の奥にあった、
あの重たいものが
完全じゃないけれど、
少しだけほどけているのを感じていた。
ガラスに映る自分と、目が合う。
ほんの少し前まで、
その顔はどこか責めるようだったのに、
今は違う。
何かを言いたそうで、
でももう責めてはいない。
そのとき、ふと気づく。
さっきまで頭の中で話していた“あの声”が、
少し静かになっている。
消えたわけじゃない。
ただ、距離ができた。
ああ、そうか。
あの声は、
“わたし”じゃなかったのかもしれない。
その一瞬、
胸の奥に小さな余白ができた。
風が少しだけ強く吹いて、
髪が揺れる。
夜の空気は、思ったよりやさしい。
ポケットからスマホを取り出す。
誰かに連絡するわけでもなく、
ただ、画面を開いて閉じる。
それだけで、少し安心する。
またガラスを見る。
そこにいるのは、
完璧じゃない自分。
でも、なんとなく、嫌いじゃない。
その感覚が、少しだけ不思議だった。
小さく息を吐いて、
コンビニの扉に手をかける。
自動ドアが開く音とともに、
あたたかい空気が流れ込んできた。
ほんの少しだけ、
世界がやわらいでいる。
ずっと話し続けているその声は、
本当に“わたし”の声だろうか。
それとも、
ただそこに居座っているだけの、誰かだろうか。




















