*・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*


「あー、ねえねえ、マトリちゃん」

仕事の都合で警視庁を訪れた帰り、廊下で服部さんと鉢合わせになった。

m「あ、服部さん、お疲れ様です」

m「どうかしましたか?」

「俺はどうもしないんだけどね、急にマトリちゃんから熱烈なLIMEメッセージ届いてたから」

m「え……?」

言葉の意味を理解出来ず、首をかしげながらポケットの携帯と取り出す。

m「あっ!」

(友達に送り忘れてた返事のスタンプ、間違って服部さんに……!)

しかも私が送ったのは、よりにもよって投げキッスのハートスタンプだった。

m「すみません、間違いです!」

「だろうねえ。これ、後でうちの連中にしっかり見せびらかしとくね」

m「それはちょっと……!あらぬ誤解を受けそうですので止めていただけると!」

「でも、送ってきたのはマトリちゃんでしょ?」

m「そうなんですけど、間違いですので……」

「間違ったのはマトリちゃんの責任だし、教えてあげただけでも一つ借りになると思わない?」

(借りって……)

m「えーっと、それはつまり何らかの形で返しなさいという……?」

「察しのいい子は嫌いじゃないよ」

(くっ、とんだ弱みを、よりにもよってこのドS大魔王に握られるなんて!)

m「わ、分かりました……私に出来ることなら」

「直接でも、メッセージでも、一度投げた言葉は取り返せないし、気を付けないとね」

m「その代わり、きちんと借りをお返しできたら、そのスタンプ消してくださいね?」

(じゃないと、いつまでこれをネタにされるか分かったものじゃ――)

「……もらったものを最終的にどうしようが、俺の自由じゃないの?」

m「……!?外道ですか!?」

「ああ、ほら。何ならスクショ撮ってそっちの捜査企画課にも送ろうか」

m「すみません、口が滑りました!」

「口は災いの元とは、よく言ったものだよねえ」

(っ、こうなったら……!)

m「とにかく、借りはきっちりお返ししますので……」

そうして頭を下げた次の瞬間、私は素早く手を伸ばして服部さんの携帯を奪い取ろうとした。

m「は……っ!」

「ん、はい残念でした。まだまだ酸っぱいねえ、マトリちゃん」

こちらの狙いなどお見通しだったようで、服部さんはあっさり腕を上げて私の手を避ける。

m「く、ぬおおっ、服部さん、もうちょっと背を縮めてみませんか……!」

「はは、縮めようと思って縮むものでもないでしょ、ほれ、頑張ってみんさい」

まるで犬猫をあやすオモチャのように、はるか頭上でヒラヒラと携帯を振られる。

(あああ、本当に、何でよりにもよって服部さんに……!)

しばらく攻防――という名の猫じゃらし攻撃を受け続けたものの、

結局、服部さんから携帯を奪うことなんて出来るわけもなく。

「さてと……それじゃ、差し当って何をお願いしましょうかね」

(こ、これぞ一生の不覚……)

息を切らせてうなだれる私とは対照的に、服部さんは生き生きとした笑みをたたえていた。