退院後、弟は父の介護をしながら仕事を探し始めました。

 

でもなかなか見つからない。年齢がどうしても壁になってしまう。

 

そんなとき、ある警備会社の面接に受かりました。

 

弟は正直に、知的障害があることを社長に伝えました。それでも「構わない」と言ってもらえた。それだけで、少し希望が見えた気がしました。

 

ただ、条件があって。

 

会社の社宅に入ること、というのです。

 

理由を弟が聞いてみると、社宅に住んでいる方が心臓が悪く、何かあったときのために一緒に住んでほしいとのことでした。

 

正直に言うと、わたしはその話が信じられなかった。

 

もし仕事の場でつらいことがあって、さらに社宅でも逃げ場がなくなったら——弟には、どこにも行くところがなくなってしまう。

 

そう思って、反対しました。

 

社長からは「社宅に入らないなら雇えない」と言われ、結局その会社には行きませんでした。

 

不信感だけが残りました。

 

それが正しい判断だったかどうかは、今もわかりません。ただ、あのとき弟を守りたかった気持ちは、本物だったと思っています。

 

仕事探しは、また振り出しに戻りました。