ショートコラム 「美の時 倫の刻」 
      (月)期間限定テーマ=2022年春は「西城秀樹」さん
      (火・木・土)連載
 

 第二十九回 ドラマ「傷だらけの天使」内「欲ぼけおやじにネムの木を」をめぐって

 二回目の「傷だらけの天使」です。

 私は原則として、このコラムでは、昔見た・聴いた時の印象のまま、特に見直し・聴き直しをせずに書いているのですが(ですから、間違ったことを書いていたら、ご指摘下さい)、今回は「傷天」の中でも細かいストーリーは全く忘れています。
 戦争からの帰還者の身一つから財を築いたじいさん(演・内田朝雄)が、ボケた振りしてオサム(ショーケン)やアキラ(水谷豊)を振り回し、彼らだけでなく周囲の人々みなをだまし、裏切り、自分だけ金持ちとしての老後に向かう、という話だったという印象だけはありますが。 
 印象深かったのは、ラスト・シーンで歌われる「ラバウル小唄」。激戦地だった南方から帰還した強欲じいさんに対して、オサムとアキラは本気では嫌えなかったようだな…という余韻を残します。
 オサムとアキラだけでなく、観ていた私も、呆れはするものの、この内田朝雄さん演じる強欲怪物じいさんに対して、それなりに苦いが、少し爽やかな感じも持ってしまいます。
 ダメな奴、汚い奴、弱い奴、勝手な奴…。「傷だらけの天使」は、そういう人間を批判する視線だけで終わらせていない気がします。

 夕陽を背にして両手を広げ、戦闘機の真似して歌う「ラバウル小唄」。
 今も時々やってしまいます。
 まあ、周りに人のいない時にですが。
 
 ドラマ 「傷だらけの天使」(1974-1975)
 第二十一話 「欲ぼけおやじにネムの木を」
    演出・工藤栄一
    脚本・宮内婦貴子
    出演・萩原健一、水谷豊、内田朝雄 など
     日本テレビ系


            藤谷蓮次郎
                二○二二年四月三十日