同僚の角谷はある噂を聞いてきた。
「そこにいる誰もが心からの笑みを見せ、幸せを感じる街がある。しかしそれは男性限定らしい」
こんな不確かな噂が生まれてしまう世の中。
そこを必死で生きる者。片手間に生きる者。
息切れさえも気付かずに、人々は最終電車へ乗り込む。
【新宿方面】
「なんか、噂~って感じの話だなそれ」
私は角谷に一瞥をくれ、あえて疑り深い目で社員食堂のランチを食べていた。
「そもそもそれは何処にあるんだよ」
半分、いや8割以上バカにした感じで私は聞いていた。
「いや、それはまだ分かんないんだけどさ・・・」
「まだって・・・・無いよそんな所。子供じゃあるまいし、マジで信じてるのか?」
「・・・だって気になるじゃん。」
「そうですね。でもそんな事より、昨日の議事録を優先させた方が良いだろ。」
私はデスクに戻り午後の業務をこなしていた。。。。
15時から西新宿の取引先に行きそのまま直帰という予定である。
駅のエスカレーターを上り青汁のポスターを見ながら取引先へと向かった。
大手商社のビルにしては殺伐とした感じの受付嬢である。
「本日15時から打ち合わせが入ってます、松谷さんいらっしゃいますか?」
受付嬢は「少々お待ちください」と非常にビジネス的な笑顔を見せた。。。
数分後・・・
エレベーターの扉が開くと出てきたのは松谷さんではなく、部下の島田さんであった・・・。
「あ、どうもお疲れ様です、只今松谷は席を外しておりまして私が担当させていただきます。」
応接室に通されると、島田は口を開いた。
「松谷さん・・・3日間音信不通なんですよ・・・」
「え?!大丈夫ですか?」
「この頃遅刻も多くて・・・丁度1週間前かな?体調でも悪いのかと思って聞いてみたんですよ。そしたら変な事言ってたんですよ・・・「そこにいる誰もが心からの笑みを見せ、幸せを感じる街がある。しかしそれは男性限定らしい」なんすかそれ?って聞き流したんですけどね。」
私はふと角谷のことを思い出したと同時に変な胸騒ぎに襲われた・・・。
「どうしました?」
「いえいえ、大丈夫です」
「それで4日前、松谷さん 場所が分かったよ! って言ってきたんですよ。その時一瞬意味がわからなかったんですが、あーこの前話してた噂ですね?ってピンときたんです。」
「そうすると、その次の日から連絡が取れなくなったんですか?」
「そうなんです・・・ただ、妙なんですよ・・・」
「妙? と言いますと?」
「いやその日は会社の飲み会があったんですよ。みんな終電で帰ったんですが、松谷さん途中で消えちゃったんですよ。そうこうしてる間に電車が出てしまったんですが、走り出した電車の窓から一瞬見えたんですが、松谷さん・・・逆のホーム、山手線の新宿方面行きホームの先端に立っていたんですよ。」
「はぁ、でその次の日から連絡が・・・」
「取れないんですよ。。。」
変な胸騒ぎは強さを増し、正直私は仕事の打ち合わせどころでは無くなっていた。
打ち合わせを終えると島田は満面の笑みで、「飲み行きません?」と親指を立てた。
松谷、島田と飲む機会は多かった、新宿にある所謂行きつけの店に足を運んだ。
「いらっしゃいませ!!」店長は小走りで私たちの元へと駆け寄って来た。
「あれ、今日は松谷さんは?」
やっぱり聞かれた。
すると島田は
「今日はちょっと体調悪いみたいで・・・。」
「あれ?昨日はそんな風には見えなかったなー」
私は島田と目を合わせた・・・。
「え?松谷さん昨日ここへ来てたんですか?」
「来ましたよー!なにやら初めて見る方と4人で来ていました。」
「4人で?」
「えー、4人で来ていました。ボトル開けちゃったんで、角谷の名前で1本入ってますよ!」
角谷・・・?
まぁ同姓だろう・・・。
「あー、そうですか」
と島田は汗を拭い店内へと入って行った。
取引先の私の前では流石にバツが悪いようだ・・・。
席に座りビールを注文すると
「松谷さん、なにかあったわけでは無さそうですね。心配しちゃったよ・・・」
確かに、中間管理職である人が容易に無断欠勤はできない、だからこそ、だからこそこの無断欠勤は気になる。
その夜は酒も進み、私も所々記憶がない・・・。
気がつくと部屋には目覚ましが鳴り響いていた。
私は急いで準備をし、会社へと向かった。。。
いつもの様にデスクに座ると課長からの内線が鳴った。
「おはようございます。」
「おう、おはよー。角谷から連絡来てるか?アイツまだ来てないんだよ・・・。遅刻もしないヤツだからな・・・メールでも来ていないか?」
私は鞄から携帯を取り出した。
昨夜は相当酔ってしまい、私は携帯を見ていなかった・・・。
来ている・・・角谷からメールが1通来ていた。
本文を開いた・・・。
瞬時に松谷さんが頭を過ぎった。。。
「おい!角谷から連絡は来ているか?」
「い、いや、何も来てないです・・・。」
私は受話器を置くと、背もたれイッパイに体を倒した。
本文には1言
「場所が分かったよ!」
とだけ書いてあった。
つづく・・・。