――2月14日。
毎年の事ながらメディカルセンターへ搬送されているが、貰ったものに対する返礼はしなければならない。
その返礼日とされているのが、今日、3月14日だ。
それは俗にホワイトデーと呼ばれ、バレンタインに戴いたものに対する返礼をする日。
「乃騎さん達も用意したんですか?」
「……何を」
「ホワイトデーのやつ! 俺買ってきたぞー」
「あぁ」
「それは、してある、という意味のああでは無い気が……」
「あのなぁ……流石に貰ったもんに対する礼をするくらいの常識はある」
「え、乃騎用意してるのかー! 凄いぞー!」
「てめぇら人をなんだと思ってやがる……」
「でも、オレ実琴にしか……」
と、ザックスがポツリと零すと、2人の顔が暗くなる。いやそれは恐らく自分もだが。
「……そもそもアレは食いもんじゃねぇからなぁ」
と、返す乃騎さんも、どうやら実琴にしか用意していないらしい。
「そ、それでも作っていただいた訳ですから」
「でもあんなに苦くて苦しい思いしたんだぞ! オレ!」
「あんな辛ぇもんもう二度と食いたくねぇよ……」
「自分も苦くて辛くて苦しくて辛かったですが……」
決して床から目を逸らさない2人の反応を見ながら今年のバレンタインを思い返す。
実琴のチョコレートは言わずもがなだが、緋月達は何故か毎年3人で用意する。
パティとマリアさんは確実に自分達の反応を楽しんでいるだけな気もするが……その結果、相変わらず苦(にが)くて辛(から)くて苦(くる)しくて辛(つら)いチョコレートを食べさせられ――いや戴く形になるのだ。
今年は苦味を集めたマリアさんと、辛味を集めたパティと、チョコレート(だけではない筈)を混ぜた緋月が、型抜きチョコレートを作ったらしく、形容できない味が最初に襲い、次いで痺れるような苦味に吐き出しそうな程苦しんだ後、刺激的な辛味が舌を攻撃するのだ。その痛みたるや。辛いなんて言葉では現せない程である。
しかし、緋月は――パティやマリアさんもなのかもしれないが――とにかく懸命なのだ。
やると決めるまでには時間が掛かるが、そうと決まってからはとにかく一所懸命。その姿は市街地で共に過ごすようになってから何度も見てきた。
だからこのお菓子作りに対してもそうなのだろうということは容易に想像出来るし、そうと知っているのに無下にする訳にはいかない。
「そ、それならお返しは3人で用意しませんか?」
しかし、2人の気持ちが理解出来ない訳でも無い。アレを貰ってお返ししなければならない、というのに納得し難いというのも解らないでもない。
だから最大限譲歩した提案をした。
「どういう事だぞ?」
「バレンタインも3人で、との事でしたから、お返しも3人で、というのも有りかなと……」
「……仕方ねぇか…」
「2人が良いならオレも行くぞー…」
「では、市街地へ向かいましょう」
そう言って3人で市街地へ向かった。
◆◇◆
数ある中でも栄えた街に降り立つ。
商業施設がいくつも並んでおり、イベント事が催されたりもする街では、デパートの中でも『ホワイトデー』という看板の置いた特設コーナーが出来上がっていた。
「バレンタインと違って、ホワイトデーってあんまり盛り上がらないんだぞ」
その特設コーナーにあるいくつかのチョコレートを手に取りながらザックスは少し不満そうに呟く。
バレンタインの時はワンフロア丸々特設会場になるそうで、それはアークスシップに届くニュースでも取り上げられていた。
「確かに……少し小さいですね」
フロア内のワンスペースのみに設置されたコーナーでは、しかし男性が何人かチョコレートを選んでいた。
「まぁ、男はそんなに拘らねぇんだろうからなぁ……」
酒入りのチョコレートを片手に、乃騎さんも答えた。
「それ、バレンタインの売れ残りだぞ」
「お前……なんで知ってんだ」
「バレンタイン終わると、売れ残ったチョコレートがちょっと安く買えるんだぞ!」
「……見に来たんですね、此処へ」
「で、どれにするんだよ」
――正直自分は皆さんひとりひとりに既に用意しているので、2人に選んでもらった方がいいのだが。
「ええと……自分にききます?」
「蓮牙が1番緋月達のこと知ってるんだぞ」
「うーん……」
そう言われても3人の好みがバラバラなので、一概にこれ、というものは用意出来ない。
パティは甘いものなら何でもいいとして、緋月とマリアさんは真逆なのではないだろうか。
「ここは無難にいきましょうか」
と、チョコレートの詰め合わせを指さす。
一口サイズのものが全部で15個入り。
これなら文句も無いだろう。
「いいんじゃねぇか」
「うん、いいぞー」
反応が薄いのを肌で感じつつ、そのまま会計をして帰宅した。
◆◇◆
「ということでお返しなんだぞー!」
ババーンという効果音でもなりそうなテンションでザックスが女性陣を部屋に呼び、チョコレートを渡す。
「わ〜! みんなありがとう〜!」
「え! あたしたちは3人でひとつなのー!?」
「こんな事してもらえるとはねェ……ありがたく受け取らせてもらうよ」
「わ、わ、ほ、ホントにいいの……? わ、私ももらって……」
実琴も嬉しそうに2つの小箱を持ち、緋月達も目を輝かせている。
パティは包装紙を早速とばかりに破り、中のチョコレートを見ると更に喜んだ。
「わはっ! すごーい!!」
「アンタの分だけじゃないんだよ」
「あ、えと、パティちゃん良ければ食べていいよ?」
ワイワイと楽しそうにした女性陣は、礼を口々に伝え、貰ったものを部屋へ持ち帰った。
「はぁ、やれやれ……来年は勘弁してもらいたいなぁ……」
「代表で実琴から、ってしてもらいたいぞ…」
「ザックスはどうして実琴から毎年貰えると思っているのでしょうね?(まあまあ、緋月達も頑張っているんですから)」
「れ、蓮牙! 逆だぞ、逆!!」
「逆っつーか、まぁ実際それはそうだろ……」
「あ、では自分も少し出てきますね」
少し急ぎ足で部屋を後にする。
その背後に、お兄ちゃん怖いんだぞ、という声が当たった気がしたが、気にしない事にした。
◆◇◆
ノックをして了承を得た後、女性陣の部屋に入る。
「あれ〜? お兄ちゃんどうしたの〜?」
扉を開けて入ると、皆先程のお菓子を共にお茶を飲んでいた。
「いえ、皆さんにお渡しし忘れたものが……」
そう言って、お菓子詰め合わせの紙袋を4つ手渡す。
「わぁ〜! さすがお兄ちゃん〜」
3人には3人からと言って渡したが、実琴には渡せていなかった。渡すのが遅れた事を詫びると、いいのに〜と笑った。
「またくれるのー!? わーい!!」
「あれは3人からでして、自分は個人的に用意してしまいましたので……」
「全く……気を遣いすぎだよ、アンタは」
「す、すいません……」
と、苦笑すると、マリアさんは褒めてるのさ、と応えた。
「れ、蓮兄。ありがとう……」
紙袋を握りしめた緋月は、それを見つめながら呟いた。
「いえ。それでは任務がありますので……」
と、踵を返すと、蓮兄、と呼び止められる。
「あ、あの……わ、私、来年ももっと頑張るから……ま、また貰ってくれる……?」
緋月は真剣な顔だった。
「……勿論ですよ」
――笑顔で答えたつもりだが、果たしてきちんと笑えていたかどうかは自信が無い。
完
(主・3・)「ひっさびさの更新! どうもこんばんは、主です!」
今回はホワイトデーについて書いてみました。
ブログもそうですが、SSも書くのが久々すぎて上手く書けませんでしたね(;´Д`)
うちの子達がワイワイやるの好きなんですけど、上手くそれを文字に起こせず、苦労しました。なんとか書き上げましたけど、上手く伝わってるのだろうか……うーん。
写真集に関しては一応加工が終わりそうなので、もうしばらくしたら上げられるかと。なんせ使い勝手のいいスマホアプリが見つけられず……色んなアプリを試しては消し、試しては消しって感じを繰り返していますので何卒……いやそもそも俺得の企画なんだけど(((
という事で今回はここまで!
最後までご覧頂きありがとうございました!
ではでは〜(・ω・)ノシ