けさ洗濯物を干して、
あぁ寒い!早くうちの中に戻ろう!
と、石畳を駆けだしたら、飛び石に足を引っ掛けてすっ転んだ。

じんじんする手のひら。
ジーンズはどろんこ。
つつじにこすった手足は葉っぱだらけになっている。

「だいじょうぶ?」
すぐ後ろにいた母が駆け寄った。
大丈夫、と私は答える。
血は出ていない。

突然、小さな子どもの頃に帰りたくなった。

昔はこんな風によく転んだっけ。たくさん転んでは、はばかることなく大泣きした。


転んだ時に、
誰かに助け起こされる経験を
人は必要としていると思う。

ひとりではない。
自分は特別な存在だ。

母は子どもの頃の私にそう思わせてくれた。
もし誰かが目の前で転んだら、私もきっと手を差し伸べると思う。
夕暮れ、
バターロールからちぎり取ったみたいな月が浮かぶ。



「寒いね」
からおばちゃんトークが始まる。

一枚一枚、
肩に重みが加わるたびに、
幾重にも重なるえり。
これが高貴なお方の肩の重みなのか。

ノートパソコンの入った私のリュックとて、さほど変わりはない。
リュックは自分で簡単に投げ出すことはできるけど、
御方様は人に着せられるのを耐えねばならない。


空蝉。
肩にのしかかる重みから
脱出する瞬間。
抜け殻になった十二単は、
まだ中に小さな姫を閉じ込めているよう。

私はえんじ色の袴をつけた
人魚よろしくパイプ椅子に腰かけた。
おばちゃんトークを手話通訳する人魚。
なんだか滑稽だ。

再び、十二単。
再び、空蝉。

ようやく終わると、
服に着替えずっしりリュックを背負う。
十二単を着たからと言って、
お姫様になれるわけではない。
平安貴族も夢の世界なわけがない。

カフェでコーヒーを飲んで一息ついた。
卒論を書きながら、
私の肩はがちがち。




ロールパンのかけらみたいなお月様
ふわっとこの世を飛び越えてみたい

卒論は順調だ。
やるべきことの山は1つこなせばさらにまた、
次から次へと積み上がる。

1分1秒はさらさらと流れ落ち、
私は知らない、それを止めるすべを。


Fall。
川岸の桜並木。
赤く色づいた木の葉が舞い落ちる。

秋。
私を追い越す風。
透き通るような青空が眩しい。

まだ行かないでいてほしい、
秋。