元マイクロソフト幹部のタンディ・トロワー(Tandy Trower)氏と言えば、かつて同社での社歴が一番長く、ベーシックやウィンドウズなど基幹製品の立ち上げに尽力した人物としてパソコン業界で有名だ。2009年11月にマイクロソフトを退社する直前は、ビル・ゲイツ会長の掛け声のもと、新設されたロボティクス部門のトップを務めていた。そのトロワー氏が、ロボット産業の発展に全力投球しようと退社し、設立したのがホアロハ・ロボティクス(Hoaloha Robotics)という名前のベンチャー企業だ。
「ホアロハ」とはハワイ語で「思いやりのある仲間」という意味。ホアロハ社は高齢者や身体障害者などの生活支援ができるロボットの開発に取り組んでいる。実はこれまで、この会社の詳細や具体的な製品は明らかではなかったが、このほど、本コラムのためにトロワー氏が電話インタビューに応じてくれた。
まず同氏が送ってくれたのが1枚のロボットの概念図だ。「これはまだコンセプト段階で、最終製品のデザインではない」と前置きしながら同氏が説明してくれた製品の具体的イメージはこうだ。「ロボットの土台は円筒形で移動でき、後ろには物を運べる機構がある。正面にはタッチ式のタブレットをドッキングできるようになっており、それとは別にロボットの『顔』を表示できるディスプレーがある。この前面のインタラクティブな部分は上下し、回転もできる。現在は、可能な限り見掛けを『ロボット』ではなく、賢いペットか仲間に近づけられるように努力している最中だ」
ホアロハ社のロボットは必要に応じて家の中を移動して食べ物や日用品を運んでくれ、薬を飲む時間やニュースを知らせてくれる。2-3年後の商品化を目指しており、価格は1万ドル未満。できれば5000ドルを切るようにしたいという。このロボットは高速無線通信網に常時つながっていることが必須なので、商品出荷までには一般的にネットワークが普及していることを前提としている。
アップルがiPhoneで成功したように
さらにトロワー氏は続ける。「ロボットは我々が開発するアプリケーションだけでなく、第3者が開発したものも使えるプラットホームにしたい。アップルが「iPhone(アイフォーン)」と「iPad(アイパッド)」で成功したやり方といっしょだ。サードパーティーのアイデアや創造性をこの重要な市場に持ち込むチャネルを提供するのがゴールだ」
ホアロハ社が開発するロボットには今のところ手も足もない。『ロボット』というよりはむしろ「“PC on wheels”(車輪に載ったパソコン)と考えてくれてもいい」と同氏は言う。現段階では実用的なロボットの手足はまだ価格が高過ぎて、個人が購入できるような商品には適さないと考えるからだ。
日本でもホアロハ社が目指しているような「パーソナル・ロボット」の開発が推進されているが、実際に商品化されたものはまだ少ない。ロボットという物に対する世間一般の期待が高すぎることが、新興のパーソナル・ロボット市場にとって不幸を招いているとトロワー氏は主張する。「高価なロボットでデモを見せることばかり続けていると、遠い未来にしか到達できないものに対する幻想を抱かせ、業界の自滅行為につながっている」と同氏は警告する。
そこでホアロハ社は「今、可能なことにフォーカスする」(同氏)考えだ。現在、手の届く価格で実現可能な技術を用い、消費者が買いたくなるようなアプリケーションを開発するのがゴールだ。
消費者が望むサービスを実現するハード
実は同社は2010年に設立当初、ソフトウエアの開発に専念しようと考え、そうしたソフトを載せるロボットのハードウエアを外部から調達しようと考えていた。ところが、「世界中を探しても、そうしたハードは見つからなかった」と同氏は残念がる。世界各国で多数のロボットのハードウエアが開発されているが、いずれも価格が高すぎるか、安くて機能が限られ使い物にならないかのどちらかだったという。そこで今は仕方なく、自社でハードのプロトタイプの開発に取り組んでいる。
ロボットの製品化で大きな課題の1つはバッテリーの寿命だが、「我々のロボットは1日24時間、週7日、持続して機能できるようなデザインにした」とのこと。また、同社のロボットは人間とのコミュニケーションを促進するため、人間との触れ合いを重視している。そこで、人間がロボットのどこをどのように触ったかを正確に検知するための優れたタッチ・センサーを探し求めており、こうした技術を持つ日本の会社ともコンタクトを取っているという。ホアロハ社の最大のチャレンジは「人間がロボットと簡単・自然に、満足のできる形でやり取りできるインタフェースのデザイン」であるとトロワー氏は認識する。
自身でプロトタイプを作った後には、実際にそれを生産してくれる提携先を見つけることも可能だ。また、こうした生活支援ロボットは販売とサポートのインフラに大きな投資をする必要があるため、こうした面からもパートナーを探したいと希望している。
日本のロボットはどちらかと言えばハード先行で開発が進んできた。果たして本当に「車輪に載ったパソコン」が市場で売れるのかと、疑問に思う読者もいるかもしれない。ソフト、パソコンの世界で成功した経験者が開発するロボット製品とは最終的にどのようなものになるのか。今から非常に楽しみである。
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影木准子(かげき・のりこ)
北海道大学工学部を卒業後、日本経済新聞社で13年間、記者として働く。うち1997-2001年の4年間は同社シリコンバレー支局勤務。現在はシリコン バレー在住のフリーランス・ジャーナリスト。コンシューマー向けロボットの開発・市場動向に最大の関心があり、この分野の米国を中心とした海外における最 新情報をGetRobo Blog(http://www.getrobo.com/getrobo_blog/)などで発信している。
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まず同氏が送ってくれたのが1枚のロボットの概念図だ。「これはまだコンセプト段階で、最終製品のデザインではない」と前置きしながら同氏が説明してくれた製品の具体的イメージはこうだ。「ロボットの土台は円筒形で移動でき、後ろには物を運べる機構がある。正面にはタッチ式のタブレットをドッキングできるようになっており、それとは別にロボットの『顔』を表示できるディスプレーがある。この前面のインタラクティブな部分は上下し、回転もできる。現在は、可能な限り見掛けを『ロボット』ではなく、賢いペットか仲間に近づけられるように努力している最中だ」
ホアロハ社のロボットは必要に応じて家の中を移動して食べ物や日用品を運んでくれ、薬を飲む時間やニュースを知らせてくれる。2-3年後の商品化を目指しており、価格は1万ドル未満。できれば5000ドルを切るようにしたいという。このロボットは高速無線通信網に常時つながっていることが必須なので、商品出荷までには一般的にネットワークが普及していることを前提としている。
アップルがiPhoneで成功したように
さらにトロワー氏は続ける。「ロボットは我々が開発するアプリケーションだけでなく、第3者が開発したものも使えるプラットホームにしたい。アップルが「iPhone(アイフォーン)」と「iPad(アイパッド)」で成功したやり方といっしょだ。サードパーティーのアイデアや創造性をこの重要な市場に持ち込むチャネルを提供するのがゴールだ」
ホアロハ社が開発するロボットには今のところ手も足もない。『ロボット』というよりはむしろ「“PC on wheels”(車輪に載ったパソコン)と考えてくれてもいい」と同氏は言う。現段階では実用的なロボットの手足はまだ価格が高過ぎて、個人が購入できるような商品には適さないと考えるからだ。
日本でもホアロハ社が目指しているような「パーソナル・ロボット」の開発が推進されているが、実際に商品化されたものはまだ少ない。ロボットという物に対する世間一般の期待が高すぎることが、新興のパーソナル・ロボット市場にとって不幸を招いているとトロワー氏は主張する。「高価なロボットでデモを見せることばかり続けていると、遠い未来にしか到達できないものに対する幻想を抱かせ、業界の自滅行為につながっている」と同氏は警告する。
そこでホアロハ社は「今、可能なことにフォーカスする」(同氏)考えだ。現在、手の届く価格で実現可能な技術を用い、消費者が買いたくなるようなアプリケーションを開発するのがゴールだ。
消費者が望むサービスを実現するハード
実は同社は2010年に設立当初、ソフトウエアの開発に専念しようと考え、そうしたソフトを載せるロボットのハードウエアを外部から調達しようと考えていた。ところが、「世界中を探しても、そうしたハードは見つからなかった」と同氏は残念がる。世界各国で多数のロボットのハードウエアが開発されているが、いずれも価格が高すぎるか、安くて機能が限られ使い物にならないかのどちらかだったという。そこで今は仕方なく、自社でハードのプロトタイプの開発に取り組んでいる。
ロボットの製品化で大きな課題の1つはバッテリーの寿命だが、「我々のロボットは1日24時間、週7日、持続して機能できるようなデザインにした」とのこと。また、同社のロボットは人間とのコミュニケーションを促進するため、人間との触れ合いを重視している。そこで、人間がロボットのどこをどのように触ったかを正確に検知するための優れたタッチ・センサーを探し求めており、こうした技術を持つ日本の会社ともコンタクトを取っているという。ホアロハ社の最大のチャレンジは「人間がロボットと簡単・自然に、満足のできる形でやり取りできるインタフェースのデザイン」であるとトロワー氏は認識する。
自身でプロトタイプを作った後には、実際にそれを生産してくれる提携先を見つけることも可能だ。また、こうした生活支援ロボットは販売とサポートのインフラに大きな投資をする必要があるため、こうした面からもパートナーを探したいと希望している。
日本のロボットはどちらかと言えばハード先行で開発が進んできた。果たして本当に「車輪に載ったパソコン」が市場で売れるのかと、疑問に思う読者もいるかもしれない。ソフト、パソコンの世界で成功した経験者が開発するロボット製品とは最終的にどのようなものになるのか。今から非常に楽しみである。
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影木准子(かげき・のりこ)
北海道大学工学部を卒業後、日本経済新聞社で13年間、記者として働く。うち1997-2001年の4年間は同社シリコンバレー支局勤務。現在はシリコン バレー在住のフリーランス・ジャーナリスト。コンシューマー向けロボットの開発・市場動向に最大の関心があり、この分野の米国を中心とした海外における最 新情報をGetRobo Blog(http://www.getrobo.com/getrobo_blog/)などで発信している。
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