『心身養生のコツ』(岩崎学術出版社,2019)
著者:神田橋條治(精神科医,医学博士)

第18章 いろいろな症状や病理への対処

243〜246ページ
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  ​ 発達障害の特徴


最近は発達障害の子どもが増えています。自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、いろいろの区分けがされていますが、養生の面からは区分けは重要ではありませんすべて、脳の発育の部分的な遅れだからです


共通した特徴は「人間関係の不器用」です精神・身体活動のいろいろな分野で不器用な人もいます。分野と程度は人によってそれぞれです。ですから、運動や人間関係や社会適応の点など、混乱する状況もさまざまです。
しかし、結果として生活の場が狭くなるのは共通です。特定の狭い分野で優れた才能をもっていると「天才」となります。アインシュタインやエジソンはおそらくそうした例です。感覚の敏感さがあり、芸術家となる人もいます。


「不器用」はトレーニングにより、ごく徐々にですが軽くなります。ですから、「個性的な子」「大器晩成」などと言われる人の多くは軽度の発達障害だったようです。


  ​ 発達障害の原因


発達障害の原因として三つのことが考えられます


遺伝が関係あるようです「親に似た、人間関係の不器用」がそれです。臨床の現場ではとても多く見られます。しかし必ず子どものほうが重症です。親のほうは家庭をもち親となっているのですから当然です。遺伝による脳の特性が極端化した理由は二点考えられます。


環境汚染はヒトという生物の進化の先端部分である脳を傷害するでしょうし、機能の中での繊細な機能部分を選択的に傷害するはずです。コミュニケーション能力が殊に不器用になるのはその例でしょう 〔「発達障害の原因と発症メカニズム」(黒田洋一郎・木村純子共著 河出書房新社 二〇一四)をお勧めします〕。

※引用者注―この著書はブログに全文掲載しました。2020年11月27日〜2021年2月5日の記事をご覧ください。


③発育環境の浅薄空疎化のせいで、生来の不器用をもっている子どもの脳に発育をうながす『心身不二』の豊かな刺激・活動の機会が与えられないのが今日の環境です
脳の機能には、感覚機能としての五感と表出機能としての声・言葉、そして行為や運動があります。それらの機能が同時に統合されて働くと「器用」であり、ちぐはぐだったり時間差があると「不器用」なのです。ですから、たくさんの機能が同時にタイミングよく行われる活動が脳の統合機能のリハビリになるのです。伝統的な子どもの遊びは、その点でとても優れています。たとえばジャンケンポンは、視覚聴覚・発声・運・社会活動・状況把握・駆け引き・一瞬前のデータの活用、相手の癖の参照などを同時並行的に行う脳のトレーニングです。パソコン・ゲームの貧しさと自然環境での自発的な遊びの豊かさを対比してみてください。


   治療・養生・トレーニングについて


経験上、大塚製薬が米国から輪入して Nature Made というシリーズで発売しているビタミンB6の一〜二錠、が脳の発育援助になります。同じシリーズのマルチビタミンミネラルの二分の一〜一錠を一緒に飲むのが良いみたいです。

理由は不明ですが、社会生活で疲労している小脳部分春ウコンを夕食後に飲むのが有効です(特に大人の場合)。後頭部にウコンを当てて『指テスト』『入江フィンガーテスト』で量を決めましょう。ときにウコンは肝臓障害などの副作用がありますから、ときどき肝臓のところに春ウコンを当てて指テストをしてください。


※引用者注ビタミンB6 1〜2錠、マルチビタミンミネラル½ 〜1錠というのはNature Madeのサプリメントの場合の一日あたりの量です。
私(引用者)の経験上、「ビタミンB6+マルチビタミンミネラル」は、人によって異なりますが飲み始めてから1〜3ヶ月程で効果を感じ始める人が多いようです。ドラックストアにありますがamazonで買うのが一番安いです。いろいろなメーカーのを飲み比べてみたところ、米国のNow Foodsというメーカーの「P-5-P」(ビタミンB6)も品質が良いようです。こちらもインターネットで購入できます。

※ 引用者注発達障害に対して必要なサプリメントで脳の発育を促す治療法は、早期に始めるほど脳の発達の遅れを取り戻しやすいです。特に脳の発育が盛んな0〜4歳は効果が大きいです。

※ 引用者注―「大人の場合には春ウコンを飲むといい」というのは、春ウコンが小脳の機能を助けることと関係があるようです(『発達障害をめぐって』p.106〜107)。ただし、春ウコン入りのドリンクは効果がいまいちのようです。無農薬の春ウコン粉末か錠剤をお勧めします。最新の研究では、大人の発達障害は小脳の機能に障害があることが分かってきました。詳しくは『「心の病」の脳科学』p.146をご覧ください。


トレーニングのほうはもっと大切です。脳機能の回復目的のトレーニングは、脳梗塞のリハビリテーションと同じ理屈で、できないことを、簡単でしやすい段階から始めて、次第に複雑で高度な機能へと進めていくのです。『進化の体操』をごらんください。


〈付言〉

​本選びのポイント:「自分にとって今日から役立つ本」を買う


発達障害は増加しています。それにつれて専門家の関心も高くなり、出版物が溢れています。ボクも「発想の航跡 別巻 発達障害をめぐって」(岩崎学術出版社 二〇一八) を出しています。本を選ぶとき、まず『8の字センサー』で選んで、次に必ず立ち読みをして、皆さんの日々の生活のなかで、養生に役立つかどうかを確かめてください。研究の歴史や診断の方法などに多くのページが割かれているものは専門家のためには役立ちますが養生のアイデアを含みません。自分にとって今日から役立つ本を買ってください。養生の工夫はまだ発展途上ですから一冊の本のごく少ないページしか役立つ部分はないはずです。


​「人間関係の不器用」により成長過程で苦しむ場合も


発達障害の子どもも大きくなります。そしていろいろな精神的な心身症的な病気になったり逸脱行動を起こしたりします。表に出ている病状はさまざまですが、一様に「人間関係が不器用」という特徴がありますそしてなによりも、トレーニングで軽くはなるけど「完全には治らない」という共通の特徴があります。そして一見予盾するようでじつは矛盾しないのは、本人は決して諦めず「なんとかして治りたい・楽になりたい」ともがき続ける点です。そのせいで、家族も主治医もたいそう苦労します。この特徴を示している精神的な病気の人がいたら、基盤に発達障害があるのではないかと考えましょう。生来の発達障害があると、母子の愛着体験が充実しないので『愛着障害』が起こりやすいし、学童期には対人交流の不器用から「イジメラレ」が起こりやすいし、長じては社会的不器用から挫折しがちで、「トラウマ」を抱えてしまい、さまざまな不適応症候群を来しやすいのです。気分変調が双極性障害の形になることもあります。


※ 引用者注発達障害の子どもの困難さを家庭や学校や地域でどのように理解・支援していくのかについては『子どもの発達障害』『学校の中の発達障害』(本田秀夫 著)をお勧めします。どちらも「発達の特性を理解し、それに合った生き方を整えれば、生きづらさは軽減する」という考え方で書かれています。

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※ 引用者注神田橋條治(かんだばし じょうじ)…伊敷病院(鹿児島市)現在週二回勤務
受診希望の方は事前に伊敷病院に電話して診察日を確かめてから来院されるといいでしょう。