「一期一会」の味わい | 歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

本格的歴史エンターテイメント・エッセイ集。深くて渋い歴史的エピソード満載!! 意外性のショットガン!!


3月ETVで、藪内家のお手前を放送していた。

濃茶は茶碗に抹茶+お湯をたっぷり入れて
とろりとした茶を茶筅で「練る」のだそうだ。
それを3~4人で3口ずつ回し飲みする。
回し飲みは千利休が始めたそうだ。亭主と
客が共に一座の心を共有するのだとか。

でもさぁ、一度は濃茶を飲んでみたいと思う
ものの、100g1000円前後で買う
私の場合、茶匙で3杯くらいの薄茶を
何杯も飲むのがよろしいようで(^^;)

茶碗+茶匙+棗+抹茶+茶筅などの道具
を揃えて、静かな時間の中で両掌に湯の
温かさを感じながら抹茶を味わう・・・

京菓子司の山口富蔵氏は「余白世界を楽しむ
のも菓子の面白さ」と語るが、入院時の
「生存」や「健康の効率」の時間では
味わえない、贅沢なひと時であるのは確か
だろうな。



藪内家のお茶会で菓子を提供した山口富蔵氏は、
京都市下京区の老舗和菓子屋「亀屋末富」の
3代目御菓子司。神社仏閣や茶道家元が得意先
である。1937(昭和12)年2月生まれという
から、今年で75歳。2008年放送のNHK
「プロフェッショナル」で紹介された。

京菓子は宮中の貴族文化の中で育った菓子なので、
花鳥風月+雪月花を愛で、亭主の趣向を反映させる。
今は桜咲く春なので、丸めた漉し餡の表に桜色+
若草色の餡を半々に散らしたりする。秋だと黄色
と緑で「野分け」と題する生菓子になる。40g
ほどの菓子からイメージが広がってゆく。

奈良・唐招提寺でのお茶会の時には、半透明の葛の
中に、青い漉し餡と黄色い百合根を入れて、波間
に映る月を表現したそうだ。唐招提寺と言えば
日本画の巨匠・東山魁夷が9年の歳月をかけて完成
させた海と波の襖絵で知られている。その海を渡って
きた鑑真和上一行は、奈良朝に黒砂糖を献上した
甘味の歴史に登場する人物でもある。聖武天皇や
光明皇后などは、どんな菓子を食べたのだろうと
想像世界が広がってゆく。

女性の碁の会では、その聖武天皇が愛用した碁石
を模した白い砂糖菓子と、碁を打つ女性のおそらく
十二一重の袖(かさね)をイメージした菓子を
作って提供した。食べればなくなってしまう菓子
だが、心の奥底に届く「一期一会」の味わいだと
思う。