宮大工・小川三夫の師は、昭和の大棟梁・西岡常一(つねいち)
(1908~1995)である。法隆寺金堂や薬師寺金堂の復興
再建を手がけた。
宮大工の世界には「口伝」というものがある。
その中の1つに「木を買わずに山を買え」というのがある。
これはどういう意味かと言うと、建物の東西南北に、木が
育成した環境のものを、そのまま使えという事なのだそうだ。
山の南側の木は、細いが強い。北側の木は太いが柔らかい。
右にねじれている木は、左にねじれている木と組み合わせて
使え。くせの強い木ほど、命も強い。くせのない素直な木
は、耐用年数も短い。
だから・・と西岡棟梁は言う。強い木が良くて弱い木が悪い
という事ではない。強い木は、柱・桁・梁などの骨組みに、
弱い木は長押(なげし)・天井・化粧板などに用いるのだと。
含蓄のある、味わい深い「智慧」である。
もう1つの口伝「木組みは人組み」に通じている。
「性根というものは、直せるものやないんですわ。やっぱり
包容して、その人なりの場所に入れて働いてもらうんですな。
曲がったものは曲がったなりに、曲がったところに合う所に
はめ込んでやらないかんですな。」
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