学生の彼と、大人のわたしの物語。
「あの…さっきの話…」
「ん?」
情事の色を残した微睡の時間。
先に口を開いた彼の声が、鼓膜を揺らす。
その声がどこか震えている気がして、シーツだけを纏った上半身を捩り、彼の方へと向きを変える。
「もし…そのような日が来たとしたら、その時は僕も一緒ですから…」
案の定、彼の瞳には涙が浮かんでいた。
そうさせた原因は自分だというのに、自分の何気ない呟きにここまで悩んでくれたことに対して、思わず笑みが溢れる。
「そうだね。どうしてくれてもいいけど、できればわたしは一息にやってほしいかな」
「じゃあ…僕は一人ぽっちってことですか?残された僕はどうやって貴女のもとに行けばいいんです?」
「そっか。そこは考えてなかった」
わたしがふっと吹き出すと、目の前の頬も緩む。
この純粋な笑顔を黒く染めているのは自分だと言うのに、彼の手を離してやることができないわたしは愚か者だ。
「なら…やっぱ一緒に逝くしかないですね」
そう呟いた彼の口から悪戯っ子のような八重歯が覗く。
この眩しい笑顔が向けられるたび、何度神に許しを乞うたことか。
そして今日もまた、その笑顔を直視できない私は、彼の温かな胸に頭を寄せ、その鼓動を感じながら、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込むことしかできないのだ。
……。
公にはできない恋をした。
隠しておかなければならない関係が、知らず知らずのうちに互いの心を傷つけている。
でも、その傷を舐め合うように寄り添うことが当たり前になってしまったわたしたちは、恋をしている自分たちに、幸せとは言えない恋に、身も心も酔っているのかもしれない。
彼から離れられないのは、きっとわたしの方。
だから、もしいつかそんな日がやってきたとしても、わたしはその運命を喜んで受け入れるだろう。
いつかその八重歯の覗く口から、この言葉が紡がれる日が来たとしても。
「明日の月は綺麗でしょうね」