オリジナル小説 | 壊れた錠前

壊れた錠前

添加物の一般的過ぎる普通の日記・・・・・・・だといいな。

タイトル:梅雨のある日 ある場所で




止む気配がまったくしない雨。

6月になったばかりだというのに、梅雨のピーク並みに降り続いている。

今日は彼女に呼ばれて少し有名な広場に来ている。

彼女は訳を言わなかったが、俺は知っている。

俺と別れるためだ。


彼女と付き合って3年ちょっと。俺は彼女のことを愛していた。

しかし昨日、見てはいけないものを見てしまった。

俺の友人と一緒に少しお洒落な店に入っていく瞬間をだ。

怒ることも泣くこともしないで、ただ見ていた。

2人が楽しそうに入っていく瞬間を……。


俺は彼女になんて言われるのだろうか。

「別れよう。」なんて聞きたくない。

俺は彼女を愛していた。だから何も聞きたくない。

彼女のことがスキだったら、彼女の幸せのために別れてやれよ。

でも、相手が俺の友人だから許せない。

俺が彼女と付き合っていることを知っているアイツだから許せない。

何故……。


傘を差した彼女が近づいてくるのが見えたが、彼女はこちらに気がついてないようだ。

隣には男が1人いた。

アイツではないと願った。しかし、俺の願いなんか神様は聞いちゃいない。

アイツと彼女は、あの時と同じように笑っていた。


アイツが俺に気がついた。

手を振っている。子供のように、無邪気に手を振って走ってくる。

彼女も走ってくる。少し恥ずかしそうに。

今俺は、どんな顔をしているのだろうか。

笑顔でいられているのだろうか。

もしかしたら、泣いているのかもしれない。

いや、怒った顔をしているのかもしれない。

わからない。自分のことなのに……。


「よっ、久しぶり」

最初に言葉を発したのはアイツだった。

「実は彼女が、お前に隠し事してんだよ」

「ちょっと、私だけみたいな言い方しないでよ」

2人が付き合っているようにしか見えない。

いや、付き合ってるんだよな……。

この2人がしている隠し事。

まだ、ばれてないとでも思っているのだろうか。


「実は、私たちね……。」

聞きたくない。

この先の言葉が「付き合っている。」だと思うから。

いや、それしかない。

この言葉以外はありえない。

でも、まったく違う言葉が出てきて欲しい。

出てくるな。

俺を不幸にするような言葉なんて出てくるな。


「私たちね……。」

「ほら、早く言えよ」

急かすアイツ。

「じゃあ、代わりに言ってよ」

「これはお前が言わなきゃだめだろ」

静かにうなずく彼女。

雨が徐々に止んできた。

雲の隙間から光が射し込んできた。


「私たちね、誕生日プレゼント買ってきたの」

「え、なんで……」

「なんでって、今日はお前の誕生日だろ」

すっかり忘れていた。

でも、なんだかベタな展開だ。

これはこれで、いいものだけど。


「ほら、これ」

かばんから取り出されたのは、可愛らしくラッピングされた小さな箱。

「ありがとう」

受け取ると、かなり軽い。

「開けてよ」

リボンを解き、包みをはがす。箱を開ける。

そして、自分の目を疑った。

何も入っていない。

「バカには見えない的なやつか、これは」

「それだと、私までバカじゃん」

「じゃあ、プレゼントは何だよ」

「そ、それは―――」


黙る彼女。ニヤニヤするアイツ。どうしたらいいのか分からない俺。

雨はやんで、太陽の光が俺たちを照らす。

ジメジメして蒸し暑い。

さらに、今の状況をどうしたらいいのか分からずイライラする。

頭痛がしてきた。

そんな俺の状況に気がついたのか、彼女がついに言葉を発した。

「私とさ、結婚してくれないかな」
逆プロポーズと言うのだろうか。

突然彼女がわけの分からないことを言い出した。

「暑さにやられたのか」

「違うって。ほら、付き合って3年もしたんだしさ……。

 お互いのこともよく分かってきたでしょ。だから、ね。」

「はぁ。」

開いた口がふさがらない。

顎が外れてしまったのだろうか。

何科に行けばいいのだろうか。整形外科だろうか……。

いやいや、こんなことを考えている場合ではない。

俺は、なんて返事をしたらいいのだろうか。

人生でとてつもなく大事な出来事は、

やはりロマンチックなことを言うべきなのだろうか。

それとも、いつもの俺らしい回答をするべきなのだろうか。


「結婚、してくれるかな」

「……、うん。」

「「…………。」」

普通の回答をしてしまった。

彼女はうれしそうだし、これでいいのだろう。

俺が余り納得できないのは、自業自得ということにしておこう。

「あの~、俺のこと忘れてない」

今まで存在を消していたアイツが、鞄から紙切れを渡した。

「これ、某遊園地で結婚式挙げれる紙。お前らにやるよ」

「え、マジで良いのか」

「あぁ、彼女も金払ったしな」


この2人が入った店で、これを買っていたのだろうか。

それだと、こいつがいることに納得がいくような気もするが

「なんでこいつと一緒に来たんだ」

「簡単なことだ。お前と彼女の両方と仲がいいのは俺くらいだろ」

「うん」

「で、俺にさっきのことを相談して、

 恥ずかしいから来てと言われて今に至る」

「なるほ。」

「じゃあ、お邪魔な俺はとっとと帰るんで」

アイツはそう言うと、どこかに走って消えていった。


「せっかくだし、デートしようよ」

彼女が俺の腕につかまってくる。

「仕方がないな。どこ行く」

「買い物ができる場所がいいな」

気がつけば青空が広がり、人通りが増えていた。

空にはもちろん―――

虹は架かっていない。

それでも俺は、とてつもなく幸せだ。