フェイヴァリット・ワールド
YOSHIKIの選んだ9人と5冊
本や音楽を作品として味わうだけでなく、その作者の言葉や生き方そのものに、深くかかわりあいをもとうとする。それがYOSHIKIの新たな詞曲を生み出すパワーになる。これら本や人物から、彼は何を学び、何を感じとったのだろうか。
ディヴィット・ボウイ
ディヴィット・ボウイは変わってて、かっこいい人だぐらいに思ってたんだけど、去年の来日のときラジオ番組で、俺はインタビュアーとして会うことができたんです。
二年ぐらい前に彼のインタヴュー集を読んだことがあって、それはすごく面白かったんだけど、この人はインタヴュアーを必ずやっつけるんですね。あらゆる手段を使って。何を言ってもすごい人だと思った。
で、実際会ってみると、すごい紳士なんですよ。いろいろなエネルギーも感じるし。普通、人と会っていると、自分の位置付けっていうのがわかりますよね。俺のことなんかなにも知らないのに、彼はその知らない人間と一つの世界を作っちゃったんです。そういうことってとても大事だと思った。たとえば、俺の素朴な質問とかにも真剣に答えてくれたし、こんなにビックになっても人を見下さないのは素敵なことだと思うから。だから、俺もそういうふうになろうと思った。そのときの俺は、彼と一緒に喋れること自体ラッキーだと思ってしまいましたからね。それじゃいけないと思ったし、次は普通に会えなきゃって。そう思ったことが、会っていちばんよかったことかな。
キース・ジャレット
この人はうちのディレクターがすごく好きだったから、たまに『ケルン・コンサート』とかを聴いていたんだけれども、たしかにすごい人なんだよね。
でも、あまりのめり込んだわけではなくて、ただ、言ってることが面白い。『キース・ジャレット』という本で読んだんだけど、なんか、哲学の本みたいなんだよ。「もし本当に自分で自分のことを見つめているならば、君には時間がないはずだ」って。これはそのとおりだと思うし、いろいろなことに共感できる人。
キッス
俺がロックを聴き始めた拠点ともいえるバンド。子供のときに見て何者だ、と思った。何がすごいかわからないけどすごい、みたいな。二年前かな、十年ぶりの武道館コンサートを観に行った。そのとき、懐かしがって泣いていた人もいたけど、俺はもうやめてくれと言いたかった。キッスが落ちぶれたわけじゃないんだろうけど、俺にはそう思えたから。昔のまま自分のなかで終わっていればよかったんだけど、きら星のようなあのイメージを壊さないで欲しいというのがあったから...。やっぱりアーティストの落ちぶれていくのは見たくない。アーティストは過去の栄光じゃないんです。今、輝いていないとね。輝き続けるのは難しいけれど、続けなければダメでしょう。
ショパン
この前「別れの曲」を練習したんだけど、すっげえ難しかった。そのときたまたま、ショパンの言葉にあって感動してしまった。「もし自分がもっと愚かだったら、今の自分を絶賛していただろう。今の自分を認めていただろう」みたいなね。結局最後まで自分に納得がいかないまま死んじゃった人だけど、だから、とことん練習もしただろうし、すごく共感しちゃったな。
でも、どこかで自分を認めればいいのにって思う。俺が言っても説得力ないけどね。永遠に自分にコンプレックスを持っているところがよかったのかもしれないし。
セックス・ピストルズ
これはまず名前がすごいと思った。そして、シド・ヴィシャスもすごいけど、やっぱり今、曲をコピーしても単純だけど、いい。この人たちの音楽を聴いてると、曲なんて、中途半端に考えるよりも何も考えないで作るほうがいいと思う。俺も影響されてますよ。きっと、どこかで。曲でいったらやっぱり「アナーキー・イン・ザ・UK」。俺たちはしょせんロッカーだみたいな、お前らがどう思おうが関係ない、そういい切っちゃっても気持ちいいんですよ。ただ自分たちが楽しんでるだけみたいな。それで成功したと思う。もし自分が輝いているんだったら、俺だって永遠にそういうことをやり続けたいと思った。今まで作ってきたイメージにこだわらないで、どんどん破壊しながらね。
中島みゆき
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寒水魚【リマスター(HQCD)】
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『寒水魚』はよく聴いたな。ちょうど受験勉強していたときだと思うけど、いちばん好きなのはこれですよ。
何が好きかというと彼女の雰囲気。情熱というか、やっぱり伝わってくるものがある。ファンといっても彼女のことをよく知らないけど、彼女の
歌っていることがすべて本当のことだと思ったんでしょうね。失恋しまくりみたいなのもふくめて。すごく傷つきやすい人じゃないかな。とにかく、彼女の雰囲気がいいんだよ。詩よりもメロディが好きだったけど。
ミッキー・ローク
かっこいいの一言に尽きる。喋り方が好き雰囲気も好き。だから、彼の主演映画はほとんど観た。たとえば『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の雰囲気。いつも、あんなふうになりたいなと思ってる。あと『エンゼル・ハート』とかも好きだし。
やっぱり、冷たさがいいんでしょう。女から見ればああいう人っていうのは、付き合っていたとしても、愛してくれているのかなとかずっと思い続けてて、いつも不安でしょうけど、どんな映画を観ていてもそんな感じがする。だから、絶対に誰の枠にも入れないみたいな感じがいいんだよ。
ケイト・ブッシュ
世界中でいちばん会ってみたい。当然、アルバムは全部聴いているし、声もいい。LAに行ったときもこの人のCDを全部持っていった。
歌詞もすごいし。なんとかして会ってみたい。会って何かについて話してみたいとかじゃなくて、とりあえず雰囲気を感じてみたいね。
リンゼイ・ケンプ
もういいおじさんなんでしょうね。彼のいい言葉があるんだよ。「耳をすまして、心の声を聞きなさい。いつも自分自身でありなさい。自分自身であるために自分を見つけなさい。内なる声に耳を傾けよ。自分の本性に従いなさい。未知との自分と出会うことを怖がらないで」って。パンフレットに書いてあったのを見つけたんだけど、何かいいなと。ただ、すごいやさしく言ってるのが嫌なんだけど。
やっぱりイメージがやさしいんです。狂気とアンバランスなことを一緒に描いたりしてるんだけど、やさしいからガツンと入ってこないんです。でもいいと思う。もっと危険な人だったらなおいい。
『コインロッカーベイビーズ』 村上龍
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コインロッカー・ベイビーズ 上下巻セット (講談社文庫)
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これは友達に勧められて読んだんです。この中に出てくる女性を一人好きになれた、それが、いちばん残ってること。
初めて村上龍さんの名前を知ったのは、友達からもらった『限りなく透明に近いブルー』を読んだ時です。過激な本だと思った。あまり感動はしなかったな。
それで本屋に行って『トパーズ』を見つけて読んでみたら、これもまた過激な本だった。「ほかに何かある?」って友達に聞いたら、「『コインロッカー・ベイビーズ』はいいよ」って。読んでみたら、この中に出てくる、アネモネという女性を好きになったという...。ハシとキクも出てくるけど、やっぱりアネモネがいい。
もちろん、この本もけっこう過激に描かれているけれど、考えてみると、俺は、村上龍の描く過激な部分をあまり過激だと思わないのかもしれないな。
『愛と幻想のファシズム』 村上龍
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愛と幻想のファシズム 上下巻セット
1,782円
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これはもう龍さんの小説を読み始めた流れで買ってしまったわけです。まぁ、名前がカッコいいなと思ったものあるけど。
鈴原冬二と、相田剣介(ゼロ)っていうのが出てくるんだけど、決断力というか行動力というか、すごい。とにかく面白いと思った。すごくパーフェクトな人間に描かれているんだけど、そこに向かう過程は、けっこうノリでいってる感じが、自分と少し共通するんじゃないかというようなものがあったりもした。
二人はたしか最初に北極圏で出会うんだけど、まだ野生児みたいな鈴原が、ゼロと出会ったことで磨かれていくんですよ。というか、磨かれてしまったんですね。俺は、はじめの素朴な出会いがいいなって、読み終わったときに思った。この本はもう一回読んでみたいな。
『世界悪女物語』澁澤龍彦
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世界悪女物語 (河出文庫 121B)
528円
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澁澤龍彦を知ったのはこの本で。本屋でいきなり買ったんですよ。タイトルと、表紙絵の女の目に惹かれたわけです。俺ってけっこう悪女に惹かれるんじゃないか、みたいに自分で思っているときがあってね。
この中でエルゼベエト・バートリという人のことが描かれているんだけど、ここは読み終わってすぐに何度も読み直した。自分の美貌のために、次々と人を殺してその血を浴びるという。彼女はしまいには六百人もの人を殺してしまうんだけど、死体を庭に埋めて、その庭には真っ赤な血の色をした薔薇が咲いていた...。とにかくその印象が強くて、これをモチーフに「ローズ・オブ・ペイン」という曲ができたんです。自分以外の人のことを書いたのは初めてだったけど、薔薇はすべてを見ていたというか、ほんとにドキドキしたんですよ。
『男樹』 本宮ひろ志
これは最高。三年前ぐらいに一気に読んだ。「人はひいて生きるか前に出て生きるかどちらかだ。前に出て生きると決めた以上、何があっても前に出て生きていかなきゃいけない」っていう言葉にまず、きた。なるほど、俺は、もうひくことはできないんだって。
主人公の京介は母親が死んだり、辛いことがいろいろあるわけだけど、すべて自分の肥やしにしていく。そして、何もないところからいきなりやくざの初代親分になって...。そこにもすごく惹かれた。普通はどこかの組に入って独立、みたいなものだと思うし。いまの日本だって、もう何もかもできあがっているなかで、新しい自分をつくっていくのは難しいことだから。
『イリュージョン』
リチャード・バック
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イリュージョン (集英社文庫)
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これもいろいろな話が入っているんだけど「トラベル・エア4000」のなかの言葉「人間が長い間飛べなかったのは空を飛べるわけがないって考える人が多かったから。大事なのはやる気」というところ。そうか、空を飛べるんだって、その言葉だけで素晴らしいと思った。まったくそのとおりだと思って、俺はいつも言ってるんだけど、絶対に不可能なんてないんだよって。だからほんとうに空を飛べるんじゃないかって思ってる。これはロサンゼルスに行ったときに外国の友達がくれたんだけど、原書で半分ぐらい読んで、早く先が知りたかったから途中から翻訳で読んだ。











