久しぶりに夏らしい、天気の良い昼下がり。
地下鉄の出口から出てきた女子高生ふたり組が歩きながら会話している。
白菊 結(しらぎく ゆい)と浦安 舞(うらやす まい)だ。
舞:「あ~もうさー、なーんか調子くるっちゃうよね~」
結:「何が?」
舞:「何がってさー、“インスピ”だよー」
結:「今日のテストのこと?ダメだったの?」
舞:「そう!」
舞:「頭ん中がマジうるさくってさー。波動乱れまくってんの!」
結:「ひょっとしてそれ、令くんのことばっかり考えてたからじゃない?」
舞:「わかる?さっすが結ねー。」と、舞は少し照れながら嬉しそうに答える。
結;「舞の波動は、バンバン伝わってくるからねー。わかりやす~い」
アハハ…(ふたりで顔を見合わせて笑う)
舞:「ねえ、結?」
結:「何?」
舞:「恋ってさー、何のためにするんだろーね。」
結:「…さあ…アレにでも聞いてみたらどうかな…」
結と舞が見上げた視線の先には、
抜けるような青空の中に“球体の鏡”の群れが浮かんでいた。
━令和18年夏。十数年前に日本を襲った未曽有の大災害をきっかけに
“令京“と名称を変えた東京は、
突如表舞台に現れた謎のエリート神官らによって奇跡の復活を遂げる。
そして今や、世界の中心都市としてその発展を極めていた。
TVニュース・女性キャスター:
「…先月、日本上空に突如現れた“ミラーボール”と呼ばれる謎の気象現象は、
現在その数を増やし続け、その数はなんと数億とも言われております。
また、直径は数千キロにまで及ぶと推測されております。」
「この謎の現象を解明するため、
引き続き政府は国内及び諸外国の先端科学チームに調査協力を要請し、
今後の対応策を慎重に検討…」
ビュウ。
空間に浮かんだホログラムTV画面を指で払って消したのは、
「烏伝学館」に通う男子高校生・大前 敬(おおまえ けい)。
友人の天河 令(てんかわ れい)と一緒に下校中だ。
敬「…いったいなんなんだろなー、あれ」
ふたりで空を見上げ、“ミラーボール”と呼ばれる現象を見つめる。
令「世界中の学者たちも頭を抱えてるようだね。
今の科学じゃ到底解明できないシロモノだって。」
敬「ふーん、やっぱりなー」
令「シンギュラリティの影響じゃないかって噂もあるらしい。」
敬「…それにしてもまったく、いつまで科学にばかり頼ってるんだ?
もうそんな時代じゃないってのにさ」
令「そう、僕たちが生きてる世界は今やAIに支配されてるも同然。
無駄な抵抗をしてるのは大人たちだけ。
人間じゃなくてAIが最先端技術を生み出す時代になったんだから、
何が現れても不思議じゃない。」
「進化したAIが生み出すものは、僕たちの想像をはるかに超えている。
アレもその一種なんじゃないかな」と、令は再び空を見上げる。
敬「…だから政府は、AIに対抗するために
今までほったらかしてきた内側の世界を進化させようと方向転換して、
俺たちが通う烏伝学館のような特殊な学校を裏から手を回してまでして作っている。
じゃあなんで、そっち方面を生かさないんだ?」
令「仕方ないよ、表立って言えないのさ。
僕たちのような目に見えない世界の勉強をしている人間を、
“何を企んでいるのかわかならいアブナイやつら”だと思う人たちは、
今でもまだまだたくさんいるんだからさ。」
敬「まあ、アブナイってのは多少合ってるかもしれないけど…
それじゃ、遅いんだよ!まったく!」と敬は憤慨する。
ビュウイー。
令「あ、波動レベルのアラームだ」
敬「やべ!下げてた、俺?」
敬「だけどさ…ん?」
令「何!?」
ゴゴゴゴゴ…
突然、大きな地響きとともに地面が揺れはじめた。
敬「…おい令!あれを見ろ」
敬と令が見上げた先には、空中に浮かぶ“ミラーボール”の群れが、
それぞれ震えるように揺れだしている。
令「…震えてる」
「バリーーーーーーーン!!!!!!!」
「バリーーーーーーーン!!!!!!!」
「バリーーーーーーーン!!!!!!!」
すると、上空の“ミラーボール”が次々に割れはじめた。
敬「…な、なんだアレ!?何が起こってる?」
令「…あれは、まさか…」
ゴゴゴ…
通行人女性「キャーーー!」
地面が揺れはじめた。
「じ、地震だ…!」「逃げろー!!」
街の人々は、パニックになって逃げ惑う。
空を見上げたまま呆然と立ちすくむ令。
敬「おい、令!!何やってんだ、早く逃げるぞ!!」
令「あ…ああ」
敬と令は、逃げ惑う人々の間をすり抜けて、
近くにある白い鳥居をくぐって神社の境内に入っていった。
敬「なんで、ここに逃げてきたんだ?」
令「…わかんない、けど僕の心がそういうから従ったまでだよ!」
「あ!」
境内で、舞と結がふたりで身を寄せていた。
敬「お、おまえらなんでここにいんの?」
舞「なんでって、避難してきたんでしょ!あんたたちこそ何で…あ、令くん…」
舞が少し照れた表情を見せる。
「キャアアアアアア!!!」
近くから悲鳴に似た叫び声が聞こえた。
舞「何!?」
敬「どうした!?」
結「あ…あれを見て!」
割れたミラーボールの中から“羽の生えた人型の影”が出現し、
次々と地上に向けて降り立ってくる。
ドウン!シュルルル!
ガシュイン!!ガシュイン!!ガシュイン!!ガシュイン!!
羽の生えた人型の奇妙な物体は、
地上に降り立つと同時に自らの羽を背中のパーツ内にしまい込み、
不気味に街を歩きはじめた。
乗用車くらいのサイズで、カラダには“縄文土器”のような不思議な模様が入っている。
「うわあああああああ!!!」
民衆は、奇妙な物体から離れ逃げ出す。
中には自分のコンピュータのカメラモードで奇妙な物体を撮影しているツワモノもいる。
ウィーン!
ビューイン!!
ドカアアアアアアアンンン!!!!
奇妙な物体は、体内からレーザー状の光を放出して次々に街を破壊していく。
敬「オエッ!なんだありゃ、宇宙人?いや、ロボットか?」
舞「ここにいたら、マズイんじゃない?やられちゃうかも」
令「…いや、ヘタに動くよりここがいいらしい」
結「わたしもそう感じる」
敬「そう…なのか…」
ドゴーン!!ドゴーン!!ドカーーーン!!
辺りには、街が破壊されていく音が鳴り響いている。
その時、境内に向かって巨大な瓦礫の破片が飛んできた。
敬「あっ!!あぶねえ」
舞「キャアアアア!!」
ビュウウウウウウウイイインンン!!!
ドカアアアアアアンン!!!
令「た、助かったのか…」
間一髪、瓦礫の破片はどこかから放たれた波状の空間によって破壊された。
そのおかげで令たちは一命をとりとめたのだ。
敬「お、おい…あれ!」
令たちの前に現れたのは、
奇妙な物体とは形状の異なる”木造のロボットらしき物体”だった。
波状の空間は、そこから放たれたらしい。
「下がっていなさい!君たち」
突然、拝殿から黒い神官服を着た長身の男が現れた。
「ムウウウウウウウウ!!!!」
「祓へ給ひ、清め給へ!!」
黒い神官服の男は、何かを強く念じながら大幣(おおぬさ)を大きく振りかざす。
ドオオオオンン!!!
ドオオオオンン!!!
その動きと連動するように、
木造のロボットらしき物体から放たれた波状の空間が、
奇妙な物体を次々に破壊していく。
敬「な、なんだこれ…戦争?…」
舞「グス…こわいよ…結…」
結「大丈夫だよ舞、しっかりして!」
令(…あの預言が…まさか)
敬「…なんだよ令!なんか知ってんのか!?」
シュルルルル!!ヴァサアアアアアア!!!!
すると突然、破壊されずに残った奇妙な物体が、
いっせいに翼を広げたかと思うと、ミラーボールに向かって飛び去っていってしまった。
「…なんとか…だな…」
黒い神官服の男はそう呟くと、
疲れ切った表情で令たちの方を振り返った。
令「…あ、ありがとうございます。助けていただいたみたいで…」
黒い神官服の男「…君たちは?」
敬「…ぼ、僕たちは、烏伝学館高等部の生徒です。
下校中にさっきの変なのが襲ってきたんで、
急いでこの神社へ逃げて来たんです」
黒い神官服の男「…烏伝学館…」
舞「ご存じですか?」
黒い神官服の男「…そうか…」
ガシュイン!ガシュイン!
木造のロボットらしき物体が境内に入ってきた。
敬「…おお…」
令「すごい…」
黒い神官服の男は、令たちを一瞥してこう言った。
「…アレが呼んだんだな。」
令たちは、意味がわからず、ただ呆然としていた。
つづく
