転生する前で、再会する前の僕

 僕は、いつも通りの日常を送っていた。

 若い時はそれなりに仕事を必死にこなしていた時もあったが、今はもう仕事を最優先にする生活をしていない。むしろ自分の時間を楽しんでいることのほうが大切になっている。

 趣味的に始めた動画配信やSNSも、気分が乗らないと見もしない。もともと飽き性というのもあるのだが、本当に好きでないことに対しては、生活がかかっていない限りは一所懸命にならない。

 この一年くらいは、ムラティーブという生配信のアプリをずっと使っている。そのアプリで独り言や誰かと会話をしながら、自分の好きなことを勉強しているのが、最近の趣味的な要素だ。

 その日も、帰宅してから習慣化されたようにムラティーブをつけた。特に誰も来なくても構わない。誰か来ても気分でなければ話もしない。僕のネットというものに対する距離感だ。ただ、いつもとは少し違って、久し振りにSwitterを確認してみることにした。Switterとは、スウィートという呟きを発信するSNSだ。生配信していても、特に気にしせずに、プライベートのスマホでSwitterを開く。

 もうずいぶんスウィートもしていないし、誰も見てないだろうな。

 僕は、ネット上で有名になるという願望はなかった。趣味として楽しめたらいいし、自分自身の記録ということで、色々と試している面が大きかった。

 Switterを確認すると一か月くらいスウィートしていなかった。いいね、もあると思っていないし、特に何も変化していないと思っていなかった。

 ところが、フォロワーがひとり増えていた。

 そして、そのフォロワーを確認すると懐かしい雰囲気を感じた。

 

 このアカウント、奈々だよなぁ。

 

 僕は、ぼんやりと思った。

 十何年前に好きだった人だ。それに、ずっと会いたかった人だった。だけれど、非現実すぎて、ぼんやりとしていた。

 

 そんなことはないか。

 

 そう考え直す。僕は人生に期待は要らないと思っていたし、勝手な期待は失望になっていくだけだと思っていたから。

 自分からDMを送って確認することがない僕は、とりあえずスウィートをしてみる。

 

 Switterは放置していて、ごめんなさい。

 久し振りに見て、少し驚いています。

 もし君が見ることがあったら、たくさん伝えたいことがあったような気がするけれど、どうも言葉が出てこないものですね。

 

 以前は、その人に対しての気持ちを色々な手段で発信していたけれど、久し振りにそういう気持ちを文字にしてみると、何を言葉にしたらいいのか迷うものだ。僕は、あまり気にせずに、そのままスウィートした。それを誰が見ていても構わないし、特にリアリティはないことに対して、躊躇うこともない。

 

転生する前で、再会した時の僕。

 

 

 君からの反応は、僕の予想よりも早かった。

 

 ちょっと話がしたいんですが。

 

 君らしいな、と僕は思った。それに、あぁ君なんだな、とも思った。

 僕の知っている君は、いつも突然で、いつも僕の想像の外にある行動を取ってくる。ほかの人が僕にそういう接し方をしていたら、僕は、間違いなく、すぐに拒否っていた。けれど、君だけは、何故か、僕は拒否する気になれなかった。

 君からはDMを送れないらしく、僕は君のSwitterアカウントにDMを送る。もともとDM機能を使ったことがほとんどなかったから、合っているかはわからない手探り状態だった。

 

 これでいいかな。

 

 僕は、それなりに他人行儀に送った。

 

 尋(仮←これでいい?笑)だよね?

 

 十数年振りなのに、あの頃のままに言葉を使う君がいた。

 

転生する前で、再会した時の僕からの

 

(ずっとこういう話を書き続けちゃうんで、ななちゃんが書きやすくなれるところまでは、ちょっと端折ります)

 

 何回か直接会って、話をした。

 君は、ずっと僕のことを好きだったと言った。色々あったけれど、僕じゃなきゃダメだ、と。

 僕は、人生で一番君のことが好きだった。ほかの誰かと一緒にいても、君への恋心は誰にも勝っていたとも思う。

 

「今は?」

 

 君は僕に問いかける。僕は少し返答に迷う。

 

「今は、どうだろう」

 

 君がこうして目の前にいるだけでも、少し前の僕には考えさえしなかったことだ。だから、思考が現実についていっていない。

 

「今も私のこと好きですか?」

 

 君は再び確認する。

 

 好きかどうかという質問は、君と離れている間にも何回かされた。僕は、誰かを嫌いになることはほとんどないので、「好きか嫌いか」という選択肢が出てきたときに、「嫌いではない」という曖昧な答えしかしてこなかった。

 ただ、今はそういう答えを、君が望んでいないことくらいは、鈍感な僕にでもわかる。そして、僕はこの場に覚悟を持って来ているつもりだった。

 

 きちんと、今の自分とも、これまでの自分とも向き合って、気持ちの整理をしたはずだった。けれど、その場になってみると、不安になってしまうところは、出てくる。

 気持ちの面では、自分自身、何度も自問自答して答えは出ていた。

 僕はずっと君のことが誰よりも好きだ。

 それは、間違いないことだ。

 ただ、君のことを好きだと言っても、君を幸せにできるかどうかの自信は、時々なくしてしまうことがある。僕は、そんなに良い人ではないからだ。

 

「そうなんだ。仕方ないよね。ずっと離れていたんだもん」

 

 君は、寂しそうに、そう言う。

 

「ちょっと、待ってもらっていいかな?」

 

 僕は、自分自身が、勇気をもって不安を振り払う時間が欲しかった。

 

「待つ? うん、急に連絡したのは私でもん。すぐに答えられないよね。待っているからいいよ」

 

 君はそう言って、笑う。

 強がって笑うのは悲しく見える。

 

「いや、本当にちょっとでいいんだ」

 

 僕は、言葉を使うのが難しく感じる。

 本当に、ちょっと、少しの時間でいいんだ。

 僕は、複雑に絡み合う自分の思考の中で、こう思う。

 複雑に悩んでいる時間がもったいないよね。

 シンプルに考えてみたら?

 

「奈々さん」

 

 僕は、君の名前を口にする。

 君が僕を見る。

 その姿を、僕は愛おしいと思う。

 君が不思議そうに僕を見て、言葉を落とそうとする前に、僕は君に告げた。

 

「結婚しよう」

 

        (ひひ。)

 

(だいぶ端折りました。こんな話を書き始めたら一冊の本になるくらいに書き続けるよ?笑。これで、ななちゃんが書いたところに繋がる感じで始めます。よろしくね)