深海輪舞曲ーシンカイロンドー

深海輪舞曲ーシンカイロンドー

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走る。



ただひたすらに、走る。




目指すのは、見えるものの中でただ一つ。

真っ白な、灯台。


すぐ近くには海。
波の音が鼓膜を震わせる。

だんだんと近づく心臓の音に呼吸が止まりそうだ。


「はぁっ、はぁっ」


立ち止まり、少し休憩する。
どくん、どくんと体全体が波打って、燃えるように熱い。
額からは汗が流れ落ち、アスファルトを濡らした。
呼吸が苦しくて、唾を飲み込むと思いっきりむせた。




『気持ち悪いんだよね』


女の声がした。

途端に思い出したくもない記憶がよみがえる。



『死ねよ』


ドンッ


鈍い音とともに、記憶の中の映像が転がった。

床と白い上履きが映る。



『クズの癖にしゃしゃってんじゃねぇよっ!!!』



上履きは視界から消えた。

それから立て続けに、腹部に鈍い痛みが襲った。

何度も、何度も。


しばらくするとそれは止み、視界は起き上がった。


白い上履きを履いた、黒いセーラー服の少女が、何やら紙を持っている。
綺麗な水彩画が描かれた、見覚えのある、紙。
右下には金色の折り紙が張り付けられていた。


「やめて」


紙は裂かれた。
少女の手によって、2つに。

ビリッビリッっと紙が引き裂ける音に、耳を塞ぐ。

やがて粉々になった紙を見、ふんずけ、少女は言った。



『こんなクッソ汚い絵、誰が描いたの?』



また、走り出した。


今度は、目指すのではなく、逃げるために。



『うちにはお金がないから普通の学校に行って』

『あの子の方が上手いのに』

『えこひいき』

『イラストで食っていかれるわけないだろ、社会をなめてんのか』

『お前には才能がない』

『どうせ買収したんだろ』

『クズが』

『馬鹿』

『絵もそれほど上手くないし、馬鹿だし、運動音痴でブスって、人生終わったね~』




今までに言われてきた罵声の数々が、追いかけてくる。

いいことだってあったはずなのに、なぜ、こんな嫌なことを、こんな時に・・・



気が付くと、灯台の登れるところまで登ってしまっていた。

錆びた手すりにつかまって前のめりになって、下を見る。

風が音を立てて、背後から前へ押し出すように流れた。

アスファルトは思ったよりも下にあって、少し足がすくんだ。



これを越えれば、すべて終わらせられる。



少しの不安と、少しの安心感。

この手すりをひとおもいに越えてしまえば、もう、あんな思いはしなくて済むのだ。

もう、泣かなくていいのだ。


制服のスカートのポケットから、一つの封筒を取り出した。

それを細長く折って、手すりに結び付ける。

これで、わたしが死んだ訳がわかるだろう。

せいぜい、自分が殺してしまったんだと、一生、その重荷を背負えすればいい。苦しめばいい。

これが最初で最後の、あの少女への復讐だ。



もう、未練は何もない。



だが、やり残したことは、沢山ある。

購読していた漫画の結末だとか、クリアしていないゲームだとか。

まだ親孝行だってしていない。

それどころか、親よりも先に行こうとしている、とんだ親不孝者だ。



しかし、それでもいい。

この苦しい世界から一抜けできるのなら、何を言われたって構わない。



沈みかけた夕日が、白い灯台をあかく染めた。

大好きだったこの光景も、これで見納めだ。


「すぐ、行くね。」


そう言って、微笑み、思いっきり、


Fin.




ネタ:


読んで下さり、ありがとうございました!


2015/2/17/Tue  少し訂正しました。