Le magicien qui habite dans la foret | ひっぴーな日記

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よくわからないことを書いてます




  そんな気まぐれ。



















Garde de la foret
 数日、数ヶ月、数年が経った。
 様々な事が起こり様々なことが起こらなかった。
 エメが魔女と出合ったのは二度あった。
 一度目はあの日の橋の所で。
 二度目は散歩の途中だった。
 その日は天気もよく、森も機嫌が良く、息子を伴って森の外の小川まで繰り出していた。
 息子がぐずったので笑い、長くなった髪をかきながら抱っこする。その時道の先から一人の老女が歩いてきた。足にぴったりとしたズボンにゆったりとした上着にカーディガンを着ていた。
 エメは会釈しようと思ったが、老女が目の前まで来て、「わかった」。
「なかなかいい顔になった。来たばかりの時は心配したが」
 声は女性でも男性でもないような、耳で聞えるぎりぎりの音のようで判別できない。なにより、「老女の顔が目の目にあるというのに分からないという事実」には普通なら恐怖を抱いただろうが、エメは笑顔で答える。
「それはありがとうございます」
 その反応に老女は大変つまらないように鼻を鳴らす。
「面白くも無い。あたしはただ確認しにきただけだ。答えな。最近森のことを街に伝えているね?」「はい。そもそもあの規範がおかしいと思ったんです。人々にも理解してもらえればもっと世界は豊かになるんじゃないでしょうか」
「人間には出来すぎたものさね。あんたはわかっちゃいない。それは罪だよ。何も知らない文化に新しい文化をかぶせ、強制的に進化させるなんて神様の所業だよ」
「それを受け入れるのも受け入れないのも、進化させるのも衰退させるのも人たちの采配だと思います」
 しばらく沈黙が続いた。エメからは表情が伺えないが、きっと渋面を作っているだろう。
「ま、あたしが割って入ることじゃないけどね、勝手にしな。もし衰退して滅亡したらあんたはどんな責任を取るんだい?」
「私が復活させます。私の命を持って」
「…………」
 しばらくの沈黙のうちに老女は言う。
「可愛い息子を作ったもんだ」
「はい」
「せいぜい大切にしなよ」
 そして、老女はまるで初めからそこにいなかったかのように立ち消えた。
 エメはしばらく難しい顔をしていたが、笑顔になり、息子へと顔を向けた。
「結局、彼の名前は呼べなかったわね」
 親子はゆっくりと川沿いを歩いていく。






 数百年が経った。
 イギリス、ノーサンプトンにある寄宿舎学校。その今時木造建築という古めかしい高等部男子寮通路を、制服に身を包んだ少女がスカートを翻しながら進んで行き、目的の部屋の目の前で止まった。ノックも何も無くいきなり扉を開いた。中は雑多な本とパソコンに良く分からない小物と服がそのまま放ってある。その中にかろうじて寝台と分かる上に一人の男子が寝ていた。その様子に少女は顔を顰めたがとりあえず言った。
「ねえ、あなた、グレン・バクスターよね?」
 来訪に気づいていたのかどうか分からないが、黒い茶髪に異常に白い肌で整った顔の、女性のような風貌を覗かせた本人は、寝ていたようで全く驚いていない。
「そこのプレートに書いてある通りだよ。それで君はアン・ケンウッドか? 最近噂の」
「噂って何よ」
「『片っ端からパートナー勧誘してはその後に投げ捨てるかのように使い捨てる』」
 少女、アンはぐったりしたような顔になる。
「あれはだってしょうがないのよ。途中で怖気づいちゃったり、使えなかったり」
「それは君の都合とも言えるよね」
 少女は薄い金髪に碧眼、整った顔立ちつまり美少女の―この中部ではない珍しい―風貌だったので恐らく本都のロンドンからきたのか、寮生だろう。
「とりあえず、逆にあなただって噂になってるわ。なんでもパートナーを取らないからずっと学校で座学してるって」
 アンは髪を掻き揚げて勝った様に笑ったがグレンは言う。
「いやだって。パートナー制度は別に採らなくても卒業できるし、めんどくさいし」
「明らかに後者が理由よねそれ! ああ、もう! そんなことはどうでもいいの! あたしの専門は降霊・召還術、あなたは?」
「錬金術。ああ、残念だ。合わないな、じゃあ」
 茶髪をガシガシかきながら寝台にねっ転がったまままた寝ようとする彼にアンは怒鳴る。
「嘘付け! あなた全分野オールA+じゃないっ! 実践魔法もラーククラスだって教授から聞いてるわよ! いいからあたしとパートナー組なさい」
「えー」
 グレンはここまで口以外一切動かしていない。アンは制服のブレザーのネクタイを直しながら、目を細めてグレンを見る。
「いいよ。暇だったし、試しに君のパートナーになろう、それでどこに行くの?」
 意外に軽くそれを聞かれて、アンは腰に手を当てて宣言するように言った。
「フランスのパリ郊外のド田舎に面白い森があるらしいわ。まずはそこからよ」









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