Le magicien qui habite dans la foret | ひっぴーな日記

ひっぴーな日記

よくわからないことを書いてます




君が行くというなら僕は行かない。





















La foret
 エメは狩人の事をその日のうちに両親紹介し、なぜか両親も歓迎した。おそらく数百という求婚を断っていた娘がこのまま一人見になるのではないかと毎日神経をすり減らせて板だからだろう、だからこそ狩人でも何でも良かったというのが本音だった。
 だから狩人の式も簡易で披露宴もなにもいらないという意向には驚いた。しかしエメも同じ気持ちだった。はやく二人で暮らして彼の役に立ちたかったからだ。
 どうにも狩人はエメ自身のことをただの貴族の娘で何も出来ないと思われているように気がしている、だからこそ彼を支えるということをしたかったのだ。
 手早く荷物を屋敷の使用人に任せ、狩人と今後のことを話した。狼はなぜか数が多く十匹、周囲に寝ている。
「私たちが住む家はどこにあるのかしら」
 狩人が主に住処としていたところは、街の郊外にある庶民の家が住むような普通の木造家屋だった。彼はあちこちに狩りの用具置き場として小屋を立てていた。それは例の魔女の噂がある森林を中心としていた。
「あの森の中にある湖のほとりに僕の本来の住処がある。狩りが無いときは、こちら側に移っているだけなんだ」
「それは素敵っ! 湖の近くの家なんて」
 最近までエメにとって狩人との生活は幸福とは実の所程遠かった。狩人がいない間はエメが家のことをしようと張り切ったものの、まず料理の仕方がわからない。農機具の種類など全部同じに見えた。服を縫おうにも針をどうすればいいのかわからなかった。だから狩人が帰ってきて少し呆れながら代わりにやってしまうのを見せられるとエメは逆に憤激して意地でも家事仕事に取り組んだ。
 油物に触った事すらなかった手はすぐに荒れ、狩人が持ってきた軟膏のようなものを塗った。一日作業をしているとすでに腕が筋肉痛だった。
 そんなエメを見て狩人は少し不機嫌に言う。
「家のことは徐々に覚えていけばいい。無理をすることなく僕の傍にいてくれればいい。君が出来ないことは当面は僕がやるからそれまでに出来るようにしてくれ」
 強要はしないが、女性は炊事をするという狩人らしい考えをもっているらしく、当然のように言った。
 それにエメは少しむきになったが頼りにしてくれるという事が誇らしく、やる気になった。
 代わりに狩人は何でも出来た。手先は器用で何でも直し作れた。いつだったか、エメに絹の細工をした服をプレゼントしたことがあった。高級なものとみればみすぼらしいものだったが、エメはそれに大喜びした。
 狩人はやはり魔女が住むという森に出入りしていたが、狩りで動物を飼ってくることはあっても、なにか魔女に関する怪しげな物を持ってくることはなかった。元々エメはそんな噂はどうでもよかったのだが。
 とにかく、ようやく二人で暮らすという段取りが出来て、エメは自分が妻として頼りにされることを喜んだ。料理の腕も一通りできるようになり、ある程度裁縫も出来るようになっていた。さすがに狩りは手伝えないが、彼の留守を任されるぐらいにはなったとエメは自負していた。
 エメが家を出るというとき、その荷物の多さに狩人はあきれ果てた。
「こんなに服は要らない。毎日きる分で他は縫えばいい。時計や化粧道具も最小限にしてくれ。なんでミシンなんてものがあるんだ。森のなかでは使えないぞ。祝い物の食料もこんなにあっては腐る。必要な物はあちらで採るから選んでくれ」
 馬車三台渡るその物量を狩人はエメにとうとうと言い聞かせたが、彼の言いなりになるのが癪で粘っては見たものの結局大きな鞄一つに全て納まった。
 そして快晴の早朝、狩人とエメは必要最小限のものだけを馬車に乗せて二人で街を離れた。エメは正直森に2人だけで住むということに不安はなかったが、でも不思議と気分は高揚してこれからの生活を楽しみしていた。
 道すがら、御者台に座って馬の手綱を操っている狩人に聞いた。
「そういえば、というか今まで私、あなたの名前をきいたことがないわ」
「それはそうだ。僕の名前はいってはいけないから」
「どういうこと?」
 そうすると狩人の表情はかなり苦しいものになり、エメは慌てて言う。
「もしかしてそういう仕来りの家柄なの? だったらいいわ、言わなくても」
 そこまで言ったところで狩人は馬車を止めた。ちょうど街と大きな木の中間で、魔女がいると噂されている森の手前の草原だった。
「僕と約束してほしい。僕の名前は普段は呼ばないこと。『あなた』でも『ねぇ』でもいい。君は僕の妻だ。知っておいて損はない」
 そこまで真剣に話す狩人にエメは不思議に思ったが、素直に頷いた。でも狩人は少し迷って、エメの耳元まで口を持っていくと、言った。
「――――」
 その音は確かに聞き取れた。理解できた。だがエメには何か、フィルターを通して表現できない物のようにも聞えた。
「いいかい、決して森の中で僕の名前を呼んではいけないよ。非常事態だけだ。不思議に思うだろうが理由は聞かないと助かる」
「……ええ、わかったわ。私はあなたと暮らせるだけで幸せですもの。それにようやくあなたの名前がわかって嬉しい」
 そう言うと、狩人はそっと唇を重ねて言う。
「それは僕も嬉しいよ、エメ」
 無表情でいう狩人だったが、初めて自身の名を呼んでくれたことにさらに嬉しく思った。
 最も、なぜ読んだのか、理由はなぜかエメは気にしなかった。
 狩人は再び手綱を引くと、馬車は森の中に入っていった。
 草原と森の境は明確で、森林の木々が生えている中に入ると一気に気温が下がった。さらに高い木が生えている為に見通しが悪く、葉の間から漏れる陽の陽光も少ない。道はあるにはあるのだが、なぜか薄っすらと漂う靄のせいで先の距離感がつかめない。
 エメは魔女が住むという噂もなんとなくではあるが納得した。このような不思議な場所から噂というものは広がっていくのだろう。
 この森林はどのくらいの大きさでどのくらい広がっているのか、エメは知らなかったが、怖い感情はいだかなかった。ただものめずらしいという物もあったが、狩人の今まで頑なに案内してくれなかった家にいける高揚感が大きかった。
 鬱蒼と茂る木々に背の高い草が両側に壁を作っており、まるで通路を進んでいく馬車だが、あるところでそれが切れた。木々が晴れ、空から陽が降り注ぎ、川がどこからか流れているようで何度か橋を渡った。
「この森には本当に魔女が住んでいるの?」
 エメは狩人に聞いてみるが、彼は当然のように言った。
「ああ、住んでいる。そして僕もよく会っているよ」
 意外な発言だったが、エメは彼のただの冗談だと思った。そもそも魔女というのは民衆が話題の種として作り上げた物だと知っていたからだ。
 何度目かの橋を渡り、どのくらい森の中まで移動してきたのか分からなくなってきたころ、ようやく一件の家が見えてきた。土台は石作りでレンガで出来ており、その上は木造の二階建て。暖炉用の煙突が見えた。
 馬車は家の中央に止まると、さっそくエメは家の概観をよくみて言った。
「本当に素敵! 二人で住むのにぴったりね」
 笑顔で気分が高揚しているエメをみて狩人も微笑み返す。近くには小川が流れており、透き通る水の中に魚が見えた。橋を渡ったところには草原とは言わないが広い草地が広がっている。
 家の周囲は少しおかしな点があった。荒れ放題なのだが、花壇だと思っていたものは何かの「絵」がかかれたもので、石ごとに規則的に配置されていた。それが家の周囲に点在していた。さらに何かのオブジェクトなのか、大きな木の木造の柱が家の脇に何本も作られていた。これにも顔のようなものが彫ってあり、エメは少し気味悪さを覚えた。
「ねえ、この花壇や彫像はあなたが作ったの? せっかくの新居だし、私が綺麗に直してあげるわ」
 やる気だったエメの言葉に狩人が言う。
「いいや、やめてくれ」
 真剣な顔をしてエメの肩に手を置く。
「これからここで暮らすにあたって僕と約束してほしいことがあるんだ。この家の周りにあるものは何も決して動かしてはならない。理由は話せないがあれらには重要な意味があるんだ。家の周囲には自由に行っていい。ただし夕方には必ず帰ること。約束できるかい?」
「……ええ、いいけど。せっかくやりがいのあるものだと思ったのに」
 見た目に奇妙なものを放置しておくのはエメにとっては不満だったが、彼がそういうならばなにかしらのおまじないのようなものだと自分を納得させた。
「じゃあ、さっさと荷物を運んでしまいしょう」
 初めはエメは男性である狩人が運ぶ物だと思っていたがやはり叱られ、渋々自分の分を運んだ。
 家の中は広く、二人住まいにはとても広い。一階は玄関すぐに暖炉のあるリビングに机に椅子が二脚。壁には炭箱にいくつかの農機具。銃架がありそこには長い銃身をもつライフル銃が架かっていた。正面には何処かの花が咲いた美しい風景の大きな絵。リビングの奥は洗い場と炊事場になっており、狩人が普段使っているだけあってあらかたの物はそろっていた。洗い場の横には裏へでれる勝手口が一つ。
 リビングの横にある大きな階段を上がると大きな部屋が三部屋あった。一つは狩人が使っていたらしい大きな寝室に残りの二つは綺麗にされていたが倉庫のように物置部屋になっていた。そのうちの一つの部屋はベランダに通じていて物干しに最適に思えた。
「この部屋はいいわ! こっちを寝室にしましょう」
「いいやダメだ。家の中は好きにしていいが、大きな物は動かさないでくれ。配置はそのままにしてくれ、外と同じように」
「……理由は言えないのね?」
「ああ」
 せっかく自分が役に立てるという所を見せれると思ったのにこれでは何も出来ないと思ったエメは、それでも荷解きと家の掃除を始めた。
 掃除は初めは自分がするものではないと思っていたところ、自立したければしろと狩人に言われてからそれなりに出来るようになっていた。エメは初めに出会ったときと比べれば自分は成長したと思っていた。しかし狩人といえばエメのことを良くいうことはあれこそ、褒めるような事はめったになかった。だからこそことを急いでいたのだろう。
 二階の寝室は狩人の少ない私物があったので収納し、自身の荷物を配置した。動かすなと言われたほかの部屋には掃除をした後、壁に絵を飾ったり、植物を置いた。
 一階にいくと狩人は銃架にかけてあった銃の手入れをしていた。二階のことを伝えると、炊事場の掃除、をするほど汚れていなかったので料理を始めた。
 狩人がどこから取ってきたのか分からない兎の肉を使った料理だったが、彼は何も言わず食べ、最後においしいとだけようやく言ったことにエメは幸せを感じた。
 その数時間後のこと。狩人はエメのことを外に呼んだ。エメは不思議に思って出ると驚いた。しばらく見かけなかったあの大きな狼が一二頭も狩人の周りにたむろしていたからだ。色や個体差はあるがいずれもおとなしそうな印象をうける。
「エメ、しばらく家を空ける。ちょっと用事で人に会ってくる。もし何かあったら必ず家の中にある獣笛を吹くように。それができなかったら僕の名前を呼んでくれ。それと夜が来たら必ず全ての窓と扉を閉めて」
「ええ、わかったわ」
 エメはそこまで心配してくれてるであろう狩人にそう答えると、彼は一度口笛を吹くと狼を散らせ、三頭だけつれて森の中に消えていった。
 それを見送ったエメは彼が帰ってくるまで掃除を完璧にしようと家に入ろうとした。
 しかし奇妙な家の周りのオブジェクトが目に入ってなぜ彼はこれを動かすなと言ったのか、初めてエメは疑問に思った。しかしそれは横においてエメは夕食の支度と洗い場で身体を洗った。
 夜の前に狩人に言われた通り、エメは家の全ての窓を閉め、扉を施錠した。
 施錠する前に見た森はなぜか静かにざわついて見えた。





I do`nt understand you.